創業計画書の「創業の動機」の見本・書き方




日本政策金融公庫の創業計画書の最初の項目は、「創業の動機」です。

「創業の動機」に関しては、起業セミナーや書籍などでは、事業に対する熱い思いや信念、ビジョン・ミッションを語りましょうと言われることが多いです。私はベンチャーのCFOとしてベンチャーキャピタルなどから資金調達をした経験がありますが、最初にビジョン・ミッションを聞かれることが多くその重要性を実感しました。

一方で、日本政策金融公庫の創業融資の審査では、事業に対する熱い思いや信念などは、どの程度重視されるのでしょうか?また、審査を通すという目的においては「創業の動機」に何を書くべきなのでしょうか?

今回は、創業計画書の最初の項目であるこの「創業の動機」のポイントを解説します。

1.熱い思いや信念は、創業計画書よりも面談でアピールするのが良い

日本政策金融公庫の創業計画書は、基本的には1枚にまとめる必要があります。もちろん、添付資料は作成するのですが、せいぜい4ー5枚程度で、それも、ビジネスモデルや売上関連の根拠資料、資金繰表・収支計画書の詳細が中心となる場合がほとんどです。

それ以上のボリュームになると、多くの審査をこなさなければならない日本政策金融公庫の審査担当者には、大きな負担になってしまいます。創業融資の審査は、100社に1社にも投資しないと言われているベンチャーキャピタルの投資判断プロセスとは、時間のかけ方が全く違うということをまずは理解すべきです。

ですので、この「創業の動機」については、フォーマットの創業計画書におさまるようにコンパクトに記載しなければなりません。融資申込者が創業計画書を作成・提出する第1の目的は、日本政策金融公庫に「事業がうまくいきそうだ、返済できそうだ」と思ってもらい、審査を通すことです。それを意識すると、熱意や信念について限られたスペースで書くよりも、ご自身の事業がうまくいくことをアピールする方が有効です。

審査担当者に事業に対する熱意を伝えて味方になってほしいのであれば、面談の場で直接思いを伝えることをお薦めします。面談は形式的な制限時間があるわけではないので、そこで「事業がうまいく+熱意や信念、情熱もある」ということを伝えれば良いと思います。

2.創業計画書の「創業動機」の悪い例

以下のような、創業動機はどのような点が問題でしょうか?

会社員時代は、深夜まで働き体調管理がままならず過労で1ヶ月ほど入院もした。その後、スムージージュースが健康に良いということを知り、飲み始めてから体調が改善した。「自分のような人を増やしたくない。このジュースで健康問題を解決したい」との思いが強くなり、誰もが健康で働ける社会を作ることが自分の使命だと確信し、起業を決意した。

この事業の分野の経験があるのかわからない

日本政策金融公庫の担当者は、起業しようとしている分野の事業の経験を非常に重視します。なぜなら、日本政策金融公庫の数十年間の創業融資業務から、起業する経営者が同分野での事業の経験があったほうが、圧倒的に成功確率が高かったというデータがあるからです。

経歴の箇所にも書けるのですが、創業動機においても触れておくほうが良いです。

どの程度準備したのかがわからない

起業を意識してどの程度の準備を行ってきたかも、審査担当者は重視しますし、事業の成功確率に大きく影響します。(1)と多少かぶりますが、起業を意識して起業に必要なスキルや人脈を構築するためにキャリアを積んできたのか、商工会議所などが主催する起業セミナーに参加するなどして準備してきたかなどの点をアピールする必要があります。

意義がある・思いも伝わるが、儲かる匂いがしない

日本政策金融公庫の目的の一つに、民間企業が手を出せない創業時の高リスクの事業に融資を行い、日本の開業率を上げることがあります。日本政策金融公庫自体も社会的意義のある業務をおこなっており、その点が重要なのは言うまでもありません。

しかし、公的機関である日本政策金融公庫も、融資の貸倒率があまりに高くなりすぎると、「税金の無駄遣いだと」と揶揄されてその存続が危うくなる可能性があります。「事業が儲かって、返済すべき金額を返済できる事業に融資する」のが基本になります。大きなビジョンや社会的意義を全面に出し過ぎると、「事業で本当に利益を出すつもりがあるのか?」と疑われますので、注意が必要です。

過労で入院などのネガティブなことは書く必要がない

創業当初の会社や事業は、経営者の能力に大きく依存します。

経営者に健康に問題があるようだと融資を躊躇しかねませんので、そういったネガティブな面はあえて出す必要はありません。

3.創業計画書の「創業動機」の改善例

以下のように、改善してみると印象は変わると思いませんでしょうか?

食品が健康に与える重要性に気づいたことをきっかけに、健康食品の通信販売事業を行う会社で約4年間働いた。企画した商品が社内でトップ売上となり商品企画責任者に抜擢され、仕入れから販売までを一貫して手がけた。仕入先の有機農家とのつながりが強固になり、かつ、販売先ルートも確保でき、半年前から〇〇の主催する起業セミナーに参加し事業プランが固まったため起業を決意した。

この事業の分野の経験をアピールする

上述のとおり、日本政策金融公庫の担当者は、起業しようとしている分野の事業の経験を非常に重視します。経験があるならば、しっかりとその内容を記載します。逆に未経験の分野で創業融資を受けることは非常に厳しくなりますので、ご留意ください。

過去に実績を作ったことをアピールする

以前の会社で重要な役職についていたり、対外的な実績があるのならば記載します。

融資申込者によっては、「ここにかけるほどの実績がない」と思う方がいるかもしれませんが、嘘のない範囲で、多少拡張してでも書くべきです。「リクルートで、営業1位でした」という方が世の中にはたくさんいらっしゃいます。これは、小さな部門で1回だけ1位を取っただけであっても嘘ではないわけですから、必要な場面では言っていいと思います。

しっかりと利益が出ることをアピールする

信念や思いは重要ですが、ここでは利益が出そうなことをアピールしましょう。BtoCの場合は、以前の会社の経験などから、販売する方法がわかっている、販売した経験や実績があることなどを記載します。BtoCの場合は「既に顧客を何件か確保した」とまで言うのは難しいのですが、BtoBであれば、「○○件の顧客の目処がついた/発注の内諾をもらった」とすると非常に説得力が増します。

美容師さんやエステサロンであれば、既存のお店のお客様のうち〇〇名が独立を打ち明けたら行きますと言ってくれている(ただし、お客様を持ち出すことについて、勤めてらっしゃったお店のルールを守ることは重要だと思います。)などと記載できれば強いアピールになります。

また、ここでは書きませんが、創業計画書全体を通して、その事業の独自性や強みを示していって、「競合相手に勝てる」ということをアピールしていきます。

まとめ

日本政策金融公庫の創業融資の審査では、事業に対する熱い思いや信念などは加点にはなると思いますが、基本的には「事業がうまくいきそうだ、返済できそうだ」という心証を与えることが、最も重要です。これは、創業計画書のどの欄を書く場合でも、意識しすべきことです。

熱い思いや信念などでアピールされたい方は、面談の際に上記の「事業がうまくいきそうだ、返済できそうだ」というアピールを十分にした後に、おこなって頂ければと思います。







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