創業計画書の収支計画の作成方法の詳細解説

日本政策金融公庫から創業融資を受けるには、創業計画書を作成する必要があります。

その中で最も難易度が高く重要なのが、収支計画(8.事業の見通しの欄)です。これは、いわゆる損益の計画で、簡単に言うと儲かりそうか、儲かった利益から借入を返済できるかを記載する箇所です。

また、創業計画書を作ることは創業融資を通すという目的だけではなく、事業が成功するかどうかは利益が出せるかどうかにかかっているわけですから、本当に利益を出せるのかを検討するという目的もあります。ご自身の事業プランが「本当に必要な売上が出せる計画なのか?価格設定や費用のかけた方は適切なのか」を検討する良い機会になりますので、時間をかけて検討すべきです。

今回は収支計画の作り方や創業融資が受けやすい収支計画書のポイントを解説します。

目次

1.創業融資の審査で見られる創業計画書の収支計画書のポイントは?

大前提として、「検討を重ねた結果の収支計画書」と、「審査担当者が審査を通しやすい収支計画書」は違う場合があります。検討を重ねた収支計画書をベースに若干の修正が必要になる場合がありますので、作成後には以下のポイントをチェックしていってください。

(1)投資計画と収支計画書のバランスは適切か?

設備投資額と収支計画は密接に関わってきます。(創業計画書で言うと、”7.必要な資金と調達方法”の設備資金”と”8.事業の見通し”です)

大きな設備投資をする計画なのに、それに見合うだけの利益を上げられなければ合理的な収支計画書ではないと審査では判断されてしまいます。

①減価償却費とは?

設備投資と収支計画の関連を理解するために、減価償却費というものの概念を理解しておく必要があります。

減価償却費は、”設備投資額÷設備が使える年数”で計算される収支計画書上の経費(費用)です。

例えば屋台を始めるにあたって、5年間使用できる200万円の屋台を購入したとします。初年度の売上は1,000万円、仕入のための費用・場所代などは500万円だったとします。収支はいくらになるでしょうか?1,000万円ー500万円=500万円でしょうか?それもとも屋台の購入費も含めた1,000万円ー500万円ー200万円=300万円でしょうか?収支計算上は両方とも違います。

事業で使える資産のうち1年以上にわたって使えるものについては、購入時だけの経費とはせず、その使える年数にわたって収支計画書で経費とすることになります。上記の例ですと、購入費200万円、使える年数が5年ですので、200万円÷5年=40万円を5年間にわたって減価償却費として収支計算に入れることになります。よって、初年度の正しい収支計算は、1,000万円ー500万円ー40万円=460万円ということになります。

②投資計画と収支計画を見るに当たってのポイント

創業計画書でいうと、”7.必要な資金と調達方法”の設備資金の項目(敷金など一部計算に入れないものもあります)を使える年数で割り算した金額が減価償却費です。

この減価償却費の金額が、売上高ー費用(仕入高+減価償却費以外の経費)で計算される収支を上回るようでは、赤字ということになります。想定される収支よりも、設備投資額が大きすぎないのかをチェックしてみてください。

(2)収支計画の実現可能性はどうか

収支計画表をゼロから作ることは、起業家にとっては非常に難しいことですが、審査担当者も迷うところでもあります。

例えば、カフェをオープンしようとしていて、売上を単価500円×1日5回転と計算したとします。

その場合は、「売上の単価500円はどうやって計算したんですか?1日5回転はどうやって達成するんですか?」という審査担当者からの質問に対して明確に答える必要があります。これは業界平均よりも高い売上を計画している場合には特に聞かれやすい(疑義を持たれやすい)です。

実現可能性については、経営者からの口頭での説明だけではなく審査時点で客観的な説明ができることが理想です。BtoBのビジネスの場合に、売上先が審査の段階で既に確保されて、契約書や見積書を入手していれば積極的に開示するべきです。

支出面である仕入れや諸経費に関しては、「業界平均と比較して妥当か」「経費の金額が過小ではないか」などが確認されます。

(3)資金繰りの見通しはどうか?補填方法があるのか?

審査の担当者が最も恐れるのが、「融資を実行してからの短期間での倒産による貸倒れ」です。

融資はリスクがある以上、貸倒れが全くないわけではありません。しかし、融資実行してから半年も経たず倒産してしまうと、「融資の際の審査がきちんと行われたのか?」ということが公庫内で問われることになってしまいます。

審査では資金繰りに多少余裕のある計画が好まれます。2015年度新規開業実態調査によると、約半分の起業家が当初の計画通りの売上が達成できていません。計画通りに事業が進まないことを前提に資金を備えておくこと必要です。

もし補填できる方法があるのなら、積極的に開示するべきです。例えば、配偶者の方が働いていて収入がある、不動産を持っていて不動産収入がある場合などはその旨を説明しておいたほうが良いです。

2.創業計画書の収支計画表(8.事業の見通し)の項目ごとの作成方法

日本政策金融公庫の創業計画書の収支計画表(8.事業の見通し)の項目は以下のとおりです。

事業の見通し

融資の審査を通すには、「早く事業が軌道に乗り、返済も契約通りにできる」ということを数字にすることが必要です。しかし、適当な数字を作ってしまうと、審査担当者からの厳しい質問には対応できず、審査を通すことはできません。

また、日本政策金融公庫の融資を通すだけではなく、事業が上手くいくためにもよく練られた収支計画である必要があります。そのためには、創業計画書を完成させるまでに何度も何度も事業計画をブラッシュアップしていくことです。

(1)収支計画書(8.事業の見通し)の”創業当初”と”軌道に乗った後”のポイント

一般の事業計画ですと、数年間の数値計画を時系列で作成します(ベンチャーキャピタル向けの事業計画はそのような形式で作成します)。日本政策金融公庫の収支計画書には”創業当初”と”軌道に乗った後”の2つの欄があり、それぞれ売上などを記載します。

「創業当初」には起業してから2-3ヶ月程度の数値を書きます。

また、「軌道に乗った後」はいつ時点なのかを記入する必要があります。日本政策金融公庫の審査では6ヶ月から1年程度で軌道に乗る計画であれば特に引っかかりませんが、2年目以降も赤字となると「融資を本当にしても大丈夫なのか」と疑念を持たれてしまいます。つまり、この収支計画上は、起業から6ヶ月から1年程度を「軌道に乗った後」にする必要があります。

利益額については、「創業当初」はトントンぐらい、「軌道に乗った後」は返済ができるだけの十分な利益が出ていることが必要です。実際には計画通りにはいかずに、6ヶ月から1年程度では十分な利益を出すことは難しい場合が多いのですが、計画上はその時期に十分利益を出すものにする必要があります。十分な利益の目安は2.(5)に記載しました。

(2)収支計画書の売上高①の算出方法

ここから、収支計画書の各項目のポイントを解説していきます。まずは売上高です。

①基本は単価×数量で計算

売上高の算出方法は、業種に関わらず、単価×数量になります。

飲食店であれば、客単価×座席数×1日当たりの回転数×月当たりの営業日数(必要に応じて、平日/休日、ランチ/ディナーなどに分ける)になりますし、製造業であれば、平均製品単価×月当たりの見込み販売数(必要に応じて、取引先や製品セグメントごとに分ける)になります。業種に合わせてブレイクダウンしてみてください。

②計画上のボトルネックがないかをチェックする

ボトルネックとは、売上を生み出すためのリソースなどの制約となるものです。

これに該当するのは、計画している事業の店舗規模、人員、立地条件、時間などです。例えば、飲食店のランチの回転数を3回転としたら、多くの場合、時間的に不可能でしょうし、席数以上にお客様を入れるような計画にはできません。

上記を見ると当たり前のように思うかもしれませんが、見落とす方が意外に多いです。

オーダーメイドで製品を作る事業を行っている場合を考えてみましょう。販売料代金が入金されるまでは、①広告などで集客する期間、②実際に契約をもらうための交渉期間、③製造期間、④取り付け期間、⑤納品から入金までの期間、などかなりの期間を要するわけですが、それが収支計画に最初から反映できる方は少ないと思います。

③達成できることを合理的に説明できる売上計画にする

日本政策金融公庫の担当者は、ずば抜けて高収益な収支計画を好むわけではありません。審査の担当者にとって利益額は、融資した金額を返済できる分だけで十分なのです。

説明に行き詰ってしまうような無理な売上計画にする必要はありません。売上を大きくすればするほど説明が難しくなってしまいます。融資した金額を返済できる金額を達成できるような売上にすれば十分ですので、場合によっては融資を申請する時点で売上を下方修正しても良いです。

④小企業の経営指標と比較する

日本政策金融公庫がHPに公表しているデータに小企業の経営指標があります。これは、日本政策金融公庫に融資を受けている企業の財務諸表を分析して出した平均値の資料です。

日本政策金融公庫の担当者は、創業計画書の収支計画書については、このデータとし比較をしています。売上計画が、このデータと比較して、良すぎても信じてもらえないし、悪すぎても貸してもらえない、「一体どの程度の売上水準にしたらいいのか?」と思ったときは、まずこの数値と比較しますし、最終的に出す数値も必ず比較するようにします。

面白い指標も確認できて、飲食店、宿泊業を確認すると、従業者1人当たり売上高 の売上高(一般飲食店だと12,718千円)、店舗面積3.3㎡当たり売上高(一般飲食店だと1,939千円)など、計画を立てる上で参考になる数値を調べることができます。

(3)収支計画書の売上原価②(仕入高)の算出方法

売上原価は、商品や原材料の仕入れのことです。

売上原価や原価率(売上原価÷売上高)は、業種によって様々なのでいくらが良いかというのはありません。

では、いくらが良いのかというと、業界の平均程度にすれば無難で、仮にそこから外れるようならば審査担当者にきちんと納得してもらえるような説明や根拠資料が必要になります。

業界の平均は、これも小企業の経営指標で調べることができます。飲食店、宿泊業を確認すると、一般飲食店の売上高総利益率が64.2%で、原価率は(1-売上高総利益率)で計算できますので、原価率は平均35.8%ということになります。

平均から外れる場合の説明方法は、仕入先からの見積書や取引の契約書等を示すのが、もっとも説得力があります。

ただし、原価率や(4)の経費については、日本政策金融公庫の審査担当者は小企業の経営指標を重視するようですので、それよりも低すぎる原価率は「楽観的すぎる」と判断される可能性がありますので、注意が必要です。

(4)収支計画書の経費の算出方法

日本政策金融公庫の創業計画書の経費欄は、その他を除くと項目が、人件費、家賃、支払利息しかなく、かなりざっくりしています。

①別紙で詳細な資金繰り表や収支計画表を作成する

私は、別紙で詳細な資金繰り表や収支計画表を添付することをおすすめしていますので、実際にはもう少し細かく計算をします。

経費は売上原価と同じように、売上が上がれば上げるほど大きくなる変動費と、人件費や家賃のように売上が上がっても変わらないものに分けることができます。

②経費を検討することにより損益分岐点も把握できる

ちなみに、損益分岐点売上高(いくら売上を上げれば利益がでるのかの売上の分岐点)は、変動費率(変動費÷売上)と固定費を把握することで計算することができます。

  • 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)

※変動費率と原価率の関係ですが、一般には原価率と経費の変動費率(経費の変動費率は変動経費÷売上で計算)を足し算した金額を変動費率と言います。変動費率=原価率+経費の変動費率ということになります。

飲食店でいうと、固定費は以下のようなものが該当します。

  • 経営者、店を開けるために最低限必要な人員の給与・法定福利費・通勤費
  • 家賃、水道光熱費の通常の料金
  • 減価償却費

変動費は以下のようなものが該当します。(理論上は以下のとおりなのですが、把握・区分が難しいものは固定費に含めて考えます)

  • 繁忙に対応するためのアルバイト代、その通勤費
  • 繁忙による水道光熱費の増加料金
  • 広告宣伝費
  • 消耗品費

なお、支払利息に関しては、借入予定額×利率÷12ヶ月で1月当たりの利息を計算します。

③積み上げの計算が終わったら、小企業の経営指標の以下の指標と比較して異常値でないかを確認する

繰り返し申し上げますが、日本政策金融公庫の審査担当者は小企業の経営指標を重視するようです。科目ごとの積み上げででき出来上がった数字が、以下の小企業の経営指標の指標と大きく外れていないかをチェックします。外れることが悪いことではないのですが、審査ではその理由を問われますので、もし外れたままの状態で提出する場合は、なぜそうなるかの説明の準備が必要です。

  • 売上高営業利益率→1-(売上原価+経費(利息除く))÷売上高
  • 人件費対売上高比率→(給与+法定福利費)÷売上高
  • 諸経費対売上高比率→経費(給与、法定福利費、利息を除く)÷売上高

(5)収支計画書で達成すべき”利益①ー②ー③”の目安

「結局のところいくら儲かるのか」を表すところですので、最も重要になります。

融資担当者がここを見て、企業の返済能力や存続能力を判断します。利益から、税金、経営者の生活費(個人事業主の場合)、借入れの返済、の3つを支払うわけですから、これらを賄うような数字になっている必要があります。

①利益はいくら以上であるべきか

”創業当初”に関しては、3つ全て支払うことができるような利益水準にする必要はありませんが、”軌道に乗った後”に関しては、3つ全て支払うことができるような利益水準にする必要があります。

具体的には、現状の法人の税率は約35%ですので、”利益①ー②ー③”×(1-35%)+減価償却費で、まずは税金を引いたあとの利益を算出できます。この数値は、”税金を引いたあとに手元に残る事業で得たキャッシュ”を計算する式でもあります。

減価償却費をなぜ足し算するかは、減価償却費は設備費として既に支出が終わっているものに対応する収支計算上の費用で、現金が出て行かない性質のものになります。”現金が出て行かない費用”になるため、必要な返済額を算出するうえでは足し算することになります。事業をしていく上でいずれ理解できるものでもありますので、計画書作成時点では、足し算するものと覚えておくだけでも良いです。

次に、”利益①ー②ー③”×(1-35%)+減価償却費は、経営者の生活費(個人事業主の場合)と借入の返済額を超えるような金額にならなければなりません。法人の場合は、経営者の生活費は収支計画の経費の中の役員報酬として入れることになり、ここで引くと2重で引くことになるため、引く必要はありません。

まとめると、以下のようになります。いずれも左側が大きく右側を上回る必要はなく、”軌道に乗ったあと”に左側が右側をわずかに上回れば問題ありません。それで、借り入れの返済はできるからです。

  • 個人事業主の目標利益水準:毎月の利益×0.65+毎月の減価償却費>毎月の経営者の生活費+毎月の借入の返済額
  • 法人の目標利益水準:毎月の利益×0.65+毎月の減価償却費>毎月の借入の返済額

②良すぎる収支計画書は信用されない

繰り返しになりますが、収支計画書の利益率や利益額を良くしすぎると、審査では相応のエビデンスや説明が求められることになります。

審査担当者にとっては、「借入を返済出来る収支計画書」を求めているわけで、「上場を目指せるような高収益の収支計画書」を求めているわけではありません。いくらビジネスプランに自信があって、担当者に説明する自信があったとしても、ここでは、一旦現実的かつ固めの数字に修正したものを提出すべきです。

まとめ:収支計画を作成する真の目的を意識して作成する

収支計画書の作成に関しては、慣れない方は苦労されると思います。しかし、実際の計算は、足し算・引き算・掛け算など簡単なものばかりです。また財務の知識に自信がなければ、足りない部分は専門家などをうまく使えば良いだけです。

収支計画を作る本質的なところは、「利益を出すためにはどのぐらいの客単価・回転率が必要でそれをどう達成するのか、コストを抑えるために少ない人数でどう事業を回すか、必要な投資は何かをよく考えてメリハリをつけたお金の使い方になっているのか、創業当初は生活費をある程度抑える必要があるのか、などを検討しているうちに、準備すべきこと・やるべきことを明確にすることです。

今回説明したとおり、日本政策金融公庫に通りやすい計画書のポイントは最終的には抑える必要がありますが、その前段階でご自身の事業が成功するためにプランを練ることが重要です。







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