借り入れは悪いことなのか?無借金経営のメリット・デメリット




昔のドラマなどでは、「借金何千万円を負って、会社を倒産させた」といったストーリーがあったり、銀行員の方にあまり良いイメージを持っていない方も多く、「借り入れは悪いこと」という認識を持たれている方が意外といらっしゃいます。

本当に企業にとって、借り入れは悪いことなのでしょうか?

今回は、無借金経営であることのメリット・デメリットを考えて、企業が借り入れに対してどう向き合うべきかを考えます。

1.日本のトップ企業は借入をどの程度しているのか?

時価総額が高い企業の借入(有利負債)を見ていきます。

公表されている各社の決算書を見ると、時価総額1位のトヨタ自動車が約19兆円、時価総額3位のドコモが約2,200億円、時価総額5位のソフトバンクが約11兆円、それぞれ有利子負債があります。ドコモは財務状況が非常に良いため例外的ですが、トヨタ自動車やソフトバンクは10兆円単位で借入等を行っています。

売上との比率で言うと、トヨタ自動車は1年間の売上の2/3程度、ソフトバンクは1年間の売上の2倍程度!の借入等を行っています。

このことから、日本のトップ企業は借入をうまく使って経営・成長していることがわかります。

2.中小企業は借入をどの程度しているのか?

中小企業全体の何%程度が借入を実施しているのかのデータは見つけることができませんでした。

ただし、中小企業における資金調達の課題という、経済産業書から公表されている資料によりますと、調達資金全体のうち、大企業は約23%を借入に頼っているのに対して、中小企業は約40%を借入に頼っていることがわかります。

このことから、絶対額は少ないでしょうが、大企業よりもむしろ中小企業の方が割合としては借入を多く行なっていることがわかります。同じ資料によると、中小企業の資本金と借入の割合が2:3ぐらいですので、資本金が6百万円だとすると、借入を9百万円ほど行っているのが標準的と言えます。

3.無借金経営ではないことのメリット・デメリットは?

多くの中小企業が借入を行っている理由やメリットは何なのでしょうか?これらのメリットがないことが、無借金経営のデメリットでもあります。

(1)いざという時に、短期間で資金調達ができる

既に借入をした実績がある金融機関で、返済実績があれば、金融機関はそれほど審査に時間をかけずに融資を実行してくれます。また、新しい金融機関に融資を依頼しに行っても、「〇〇銀行さんも融資しているのですね」ということで、信頼性が全く違います。銀行は横並びが好きです。

銀行融資で最もハードルが高いのは、初回の融資です。2回目以降は多少苦しい状況であっても融資をしてくれますが、初回から苦しい状況の場合には、なかなか融資を実行してくれません。

「うちは資金に困ることは永久にない」という自信がある企業以外は、少額でも良いので融資実績を作っておくべきです。

(2)現預金残高を高水準に保つことで資金調達がしやすくなる

金融機関は、現預金残高が少なく、半年後に倒産するリスクがある企業よりも、現預金残高が多く、何か不測の事態が発生したとしても生き残る可能性が高い企業に融資をしたがります。

「現預金残高が多い」というのは、負債が同額で多い場合であってもです。A社は現預金残高5百万円で借入が0、B社は現預金残高15百万円で借入が10百万円、ネットするとA社もB社も同じ現預金残高5百万円ですが、B社の方が融資はしやすいです。

(3)経営にレバレッジを働かせることができる

株主目線で会社を見ると、「少ない資本投下で大きな利益を出す」というのが望ましい状況です。

融資をいくら受けたところで、株主は自分の財布からお金が出て行くわけではありません。金融機関の資金を使って利益を出してくれれば、株主にとっては嬉しいわけです。ROEといった資本効率を測る指標も改善します。

オーナー企業であっても、金融機関と資金リスクをわけ合って事業を行えるわけですから、オーナーにとって少ない資金で大きな事業を行うことができます。

(4)経営上の選択肢が増える

融資を行い、現預金が多くあると経営上の選択肢が増えます。

「設備投資をすれば効率が上がって利益率が上がるが、設備が高額なため購入を躊躇している」、「新たに有望な取引先を見つけたが、回収条件や支払条件が厳しいため、取引を開始するか躊躇している」といった場面で、資金が豊富にあれば少なくとも資金的な課題は解決されるため、選択肢が増えます。あとは、それが会社にとって良いかどうかの経営判断をして、実行するかしないかを決めるだけです。

(5)金融機関からの支援を受けることができる

金融機関は、企業に必要な情報を提供したり、協業できる先を紹介したりと様々な支援を行っています。我々税理士などの専門家と違い、情報提供や簡単な相談は基本的にタダで(もちろん利息は払っているわけです)実施してくれます。

金融機関によって、濃淡はあるのは事実ですが、ないよりはあったほうが良いと思います。

4.無借金経営であることのメリットは?

では、無借金経営のメリットは何なのでしょうか?これらのメリットがないことが、借入をする企業のデメリットです。

(1)利息を支払わなくて良い

当然ですが、融資を行うと利息というコストが発生します。現状はかなり低金利ですが、上記のメリットと比較して融資をするのかどうかを検討してください。

創業時は3ー4%程度で、それから会社の信用力によって増減していきます。なお、創業時であっても特別な制度を利用すれば、1%台で借りることもできます。詳しくは、日本政策金融公庫の中小企業経営力強化資金のメリット・デメリットをご覧下さい。

(2)資金管理がシンプル

融資を実行すると、どうしても資金繰りの管理が必要になります。何本も並行して借り始めると管理が煩雑になります。一方、融資がないと資金管理は比較的に容易です。

ただし、必要な資金を調達していなかったために、常に資金繰りを気にしているような状況ではこのメリットはなく、余計に資金繰りに悩ます時間が多くなってしまいます。

(3)金融機関との付き合いに時間を取られない

資金の出し手に対しては、事業の状況などを説明する責任が発生します。

融資に関しては基本的に契約で定められた報告は最低限行う必要がありますし、継続して付き合いたいのであれば、会社側から積極的に情報開示する必要があります。1年に1回、決算書ができあがったら対面で説明しに行く、半期に1回、中間決算書を送る、ぐらいはやったほうが信頼を得ることができます。

5.まとめ

無借金経営のメリットは確かにあります。

しかし、弊社は、特に不確実性の高い創業初期の会社様には、創業融資による借入をご提案し、資金的に余裕のある経営をして頂いています。売上予測が少しズレることで簡単に資金ショートしてしまうような計画では、リスクが高すぎます。

加えて、創業時に借り入れた資金を使って利益体質の会社を作ることができれば、さらに資金調達をし会社を成長させ、またさらに資金調達をし会社を成長をさせるという好循環を作ることができます。固めの計画を作って頂ければわかりますが、利益だけで次の設備投資を行い成長していくことは極めて難しく(極めて長期間かかり)、資金不足が成長の足かせになります。







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