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融資を受けた後、事業が想定よりもうまくいかずに毎月の返済や資金繰りが厳しくなってきた場合はどのような対応ができるでしょうか?
- 新たな売上の向上施策を打つ
- 取引先と交渉して取引条件を変更する
- 家賃や人件費などの固定費を削る
上記のような自社の努力での対応は色々と考えられますが、もう一つ、金融機関と交渉をして、返済額を変更したり、返済を一旦ストップして猶予をもらう、リスケジュールという方法があります。
自社努力は成果が出るまである程度時間がかかるものが多いでしょうし、広告宣伝など施策自体にキャッシュアウトが伴うものもあるでしょうから、資金的に手遅れになる前にリスケジュールするというのは、事業継続のための有用な方法です。
今回は、融資による資金調達を行ったあとに、リスケジュールをしたい場合の方法をご紹介します。
目次
1.どのタイミングでリスケジュールの交渉を開始するか
(1)リスケジュールとは?
リスケジュールとは、金融機関への返済を一定期間猶予してもらうことで、経営の改善・安定化を図る施策で財務戦略の一つです。リスケジュール、リスケと呼びます。
リスケジュールとは予定を変更することで、その大半は、予定を延ばすこと、金融の分野では債務の返済計画を変更して、返済を繰り延べることを意味します。すべての金融機関の同意と、衡平(※)な割合での繰り延べが必要です。
※衡平性の原則…返済猶予を受ける時は、すべての金融機関に対して原則同じ条件で依頼しなければなりません。A行には返済しながら、B行には返済しない、これは衡平性の原則に反します。
(2)どのタイミングで交渉を開始するのか?
これは、「従来のスケジュール通りに返済が難しいことが判明した時点」ということになります。
このタイミングを逃さないためには、毎月のキャッシュフローの状況(=実績)や将来のキャッシュフロー(=予測)を把握しておく必要があります。
最も簡単な方法は、直近3ヶ月ぐらいのキャッシュフローの推移を見て、それを引き伸ばして将来の数字を予測することで、このようなやり方でも大体の把握はできます。理想は資金繰り表を作りたいところでそうすべきなのですが、ある程度利益が出ていて預金残高に余裕があり、感覚がしっかりしている方は、この方法でも問題ない場合があります。また、このような簡便なものでもアラートの役割としても有効です。
ただし、支払いには年に1回や半年に1回にしか払う必要のない税金などがありますので、直近の数字から将来を予測するだけでは不十分な場合があります。税金に関して言うと、赤字の会社はほぼ税金を払う必要がないため、「いきなり多額の税金を払うことになって資金繰りが厳しくなった」ということはありえませんが、黒字の会社については黒字額に応じて税金が発生しますので、注意が必要です。
その他、取引先からの回収の遅延が発生したり、仕入れ先によって支払い条件が大きく異なるような場合で資金繰り表を作成していないと、「今月はキャッシュフローのマイナスが大きいが、なぜなのか正確なところはわからない」といった状況に陥いりがちです。
上手くいっているのか、行っていないのかが、現預金が少なくなり資金的に厳しくなってからしか把握できないのは本当に危険ですので、分からない方は、毎月の実績の分析と将来の大体の資金繰り予測ができるようにしたほうが良いです。資金繰りがギリギリで、ご自分で予測が難しい場合には顧問税理士などの専門家に依頼して資金繰り表の作成を支援してもらうことをおすすめします。
なお、「事業が上手くいっているはずなのに、なぜか資金がどんどん減っていく」という状態は、多くが運転資金の増加によるものですので、その場合はリスケジュールではなく追加の融資を検討することになります。
2.将来の計画を作って、変更後の返済額を決める必要がある
日本政策金融公庫に関しては、一般にはリスケジュールに応じづらいと言われているようですが、担当者としてもリスケジュールせずに貸付先が倒産してしまっては困るわけで、きちんと説明をすればリスケジュールには応じてくれます。
ただし、「返済額をいくらに変更したら返済できますか?」という質問にはきちんと回答する必要があります。
1.で大体のキャッシュフローの予測の仕方を説明しましたが、金融機関の担当者にリスケジュールをお願いしに行く場合は将来の計画(経営改善計画)を作って説明しなければなりません。経営改善計画は、「今の返済額では資金ショートするが、変更後の返済額であったり猶予期間があれば、資金ショートさせずに返済できる」というものにする必要があります。
例えば、売上を将来大きく改善する計画にした場合、「なぜ売り上げをこんなに改善できるんですか?」というツッコミとともに、計画値によっては「結局このとおり改善すれば従来のスケジュール通りにで返せるんじゃないですか?期間をもっと短くしても問題ないのではないですか?」というツッコミをされる可能性があります。このあたりは、無理のないバランスのとれた計画にする必要があります。
詳しくは、4.をご覧下さい。
3.日本政策金融公庫やその他金融機関とのリスケジュールの具体的な進め方
リスケジュールの流れは以下のとおりです。
(1)返済の相談のアポを取る
取引中の支店の担当者に連絡のうえ、相談のアポを取ります。
この時点で具体的な事業計画を提出できればベストですが、差し迫った状況であれば、相談日を確定させることを優先させます。
(2)経営改善計画(事業計画書)を持って実際に相談をする
単に「返済を先に延ばしてください」では、担当者はその必要性があるのかを判断できませんし、返済条件を変更することもできません。
具体的にどの程度の期間を伸ばし、いくらなら返済することが可能なのかを、具体的に数字で示す必要があります。そのためには、経営改善計画書(事業計画書)を作成する必要があります。
また、実績値よりも、売り上げが改善されているもしくはコストカットできているような計画については、その理由をきちんと説明する必要があります。
(3)返済条件の変更をする
日本政策金融公庫内の審査が通れば、返済の条件が変更されます。
4.経営改善計画書の作成・交渉のポイント
(1)経営改善計画のポイント
経営改善計画のポイントは以下のとおりです。
- 経営改善計画とは、5年以内に債務償還年数を10年以内にし、かつ、債務超過解消を達成する計画です。
- リスケジュールは、一定以上の手持ち資金がある状況で行い、かつ、リスケジュール中の返済金額は極小に設定します。
- リスケジュール中の金融機関対応は、特に丁寧に行ってください。
(2)リスケジュールを受けられる条件は?
一定期間返済猶予を受けることで、その会社・個人事業者様の経営が健全化することが条件になります。返済猶予を行っても、経営が改善する見込みがない時は、金融機関は返済猶予を受け付けません。
- 経営がうまく行っていません。返済する資金がありません。経営が改善する見込みも立ちません。
→こういった説明をしてしまうと、リスケジュールを受け付けてくれません。 - 短期的に資金繰りが厳しい状況です。中期的にこのように経営は改善していきます。一時的に返済を猶予いただきたい。経営改善の計画は、経営改善計画書で提示します。
→リスケジュールが認められるのは、このようなケースです。
(3)経営改善計画書作成及びその後の対応のポイントは?
金融機関の同意を得るために必要な計画書を経営改善計画書と呼びます。
※経営改善計画書は、金融機関に提出するためにも必要ですが、その本質は経営改善の道標です。
①経営改善計画の期間は最長5年以内が目安
金融機関目線の経営の健全化・健全な財務とは、債務償還年数が10年以内、かつ、債務超過ではない状態であることです。
5年以内に、単年度の簡易キャッシュフロー(=減価償却費+税引き後利益)が、純債務の10分の1以上(債務償還年数10年以内)に到達しなければなりません。併せて、債務超過解消の状態に仕上げる必要があります。
なお、過度に短期間で完了する経営改善計画書はお勧めできません。結果として、早期の完了は問題ありませんので、5か年計画をオススメします。
②リスケジュール中には、新たな金融支援は受けられない
金融機関からの新たな資金調達を行わずに、手持ち資金のみで資金繰りを回し続ける計画が必要です。リスケジュールの依頼は、手持ち資金を持ち合わせた状況で行わないと、その後の資金繰り計画が立ちません。ある程度の手持ち資金を残した状況で行います。
同様に、リスケジュール中は、極力返済金額を極小(可能であれば0円)に設定します。手持ち資金のみで経営改善を完遂するためには、一定の資金が必要です。リスケジュールは、一定以上の手持ち資金がある状況で行い、かつ、リスケジュール中の返済金額は極小に設定することをお勧めします。
③リスケジュール計画は、原則毎年1回更新
2年以上のリスケジュールを金融機関が受け付けるケースは稀です。
5か年計画に沿って、その進捗を適時金融機関に報告しながら経営改善を進めます。計画に変更があれば適時計画を見直します。金融機関は、経営改善計画に沿って、リスケジュールを受け付けた会社様を、継続的にモニタリングする必要がありますので、継続的に経営状況がわかる資料の提出が必要です。
なお、モニタリング頻度は、状況によって変わりますが、毎月または3ヶ月毎が一般的です。
5.日本政策金融公庫からリスケジュール、返済猶予をしてもらううえでのポイント
(1)延滞してしまう前にリスケジュールする
延滞とは、(リスケジュールなしに)期日通りに返済をしないことを言います。リスケジュールという手続きを経て返済額を減額してもらうのと、単に延滞するのとでは全く意味が違います。
当然、延滞をしたあとはリスケジュールのハードルも上がります。資金繰りを常に把握しておき、早めの相談を心がけましょう。
(2)民間金融機関の方がリスケしやすい?
リスケジュールに関しては、民間金融機関の方が応じてもらいやすいと言われています。しかし、衡平性の原則がありますので、民間金融機関だけ優先してリスケしてもらうというのは、その原則に反します。
特殊なケースとして、救済的な措置で日本政策金融公庫の借入残高が少ない場合に、他の金融機関はリスケし公庫だけ継続して返済をし続け、すぐに新しい借り入れを起こすというパターンはあります。
基本は全ての金融機関に相談した上で、全ての金融機関に納得してもらう形で進めていきます。
6.保証付き融資リスケジュール時の注意点
リスケジュールの依頼に対して、金融機関からの了承を得たにも関わらず、信用保証協会の追加保証料が用意できないためにリスケジュールが実行できないというケースがあります。
保証料とは、企業が銀行から融資を受ける際に、信用保証協会に保証をしてもらう対価として支払う費用です。保証料は、企業の経営状況や保証制度によって異なりますが、概ね保証金額の0.5%~2%程度です。保証料は保険料ではない点にも注意が必要です。企業が銀行に支払いできなくなった場合、信用保証協会は、企業の代わりに残債を銀行に支払いますが、これで借入が帳消しになる訳ではありません。信用保証協会は、銀行に支払った金額を企業側に請求します。
また、保証料は利息と違って、借入時に借入期間分の全額を一括で支払うのが一般的です。(分割支払い制度もあります。)一括払いですので高額になりますが、借入時は融資金から差し引かれますので、支払いに苦労することはないはずです。
保証料は、融資残高に保証料率をかけて計算します。リスケジュールで、仮に1年間返済をストップした場合、当初の約定どおりに融資残高は減っていきませんので、リスケジュールの実行時に保証料を再計算すると追加保証料が発生します。借入残高によっては、数十万から百万円単位になることもあります。
銀行からは承諾が取れているのに、目先の保証料が用意できないためにリスケジュールができないのはもったいないです。資金繰りが厳しいと感じたら、ぎりぎりまで粘るのではなく、余裕を持ってアクションを起こすことをオススメします。
7.まとめ
事業はその内外の環境や状況が日々変わるわけですから、リスケジュール・返済猶予は少なからず発生するものです。
リスケジュール・返済猶予を行うことが問題なのではなく、適切なタイミングで金融機関とコミュニケーションができまずに、本来ならリスケジュール・返済猶予できたものができなくなっていまうことが問題です。
金融機関と適切なタイミングで相談を行うためには、資金繰りの把握は不可欠です。資金繰り表は、金融機関に提出する場合以外は、きれいなものを作る必要はありませんし、必要以上に細かく作る必要もありません。1.に記載のアラート的な役割を果たすものをまずは作成しましょう。
実績の分析表や資金繰り表については、形式・細かさ・期間など、会社によって知りたい情報が違うわけで、使う目的によっても変わってきます。必要な情報だけを切り取って御社に必要なものを作成していきましょう。
また、実際に銀行と交渉をする際に必要になる経営改善計画書は、やはり顧問税理士などの専門家の支援を受けることをオススメします。
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