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資金調達を考える株式会社の設立時からアーリーステージまでの機関設計

株主総会や取締役会を会社の機関と呼びます。会社の機関は、設立時に作成する定款で会社法上定められた範囲で自由に決められることになっています。

これは、会社の規模によって適した機関が違うはずで、組織の大きさや置かれた状況により、ある程度自由に決められたほうが良いという趣旨からです。

各機関の役割や、設立時からアーリーステージ期の機関はどうすれば良いのでしょうか。

1.機関設計は任意。どれを選択するかを「機関設計」という

会社法上、株主総会と取締役(取締役は特定の個人を指す場合もありますが、会社法上は機関の1つになります)は必ず設置しなけれなりません。

その他の設置については複数のパターンから選択することができるため、どれを選択するかを決めることができます。これを「機関設計」といいます。

どのような機関設計を行っても、株主総会は会社の業務を執行する取締役を選任する権利等があり、最高の意思決定機関です。必要に応じて、取締役の業務を監査する監査役、会計を監査する会計監査人等の設置を行うことになります。

2.株式会社の機関の種類

機関の種類と概要は以下のとおりとなります。

なお、大会社とは直前のBSの資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社で、公開会社とは株式の譲渡制限がない会社です。設立時は通常はいずれも該当しません。

設立時は、株主総会~会計参与だけ確認頂ければ問題ないと思います。

  • 株主総会
    株主総会は、会社の最高意思決定機関です。取締役の選解任、会社のルールである定款の変更、増資、合併や買収等の重要事項は株主総会の決議が必要です。
  • 取締役
    会社の業務執行を行う機関です。業務を行う役員のことです。
  • 取締役会
    全取締役で構成され、業務執行に関する意思決定を行うとともに、取締役の業務執行を監督する機関です。なお、取締役会の設置には3名以上の取締役が必要で、監査役の設置も必要です。公開会社は設置が義務付けられています。
    大企業の子会社などは設立時から任意で取締役会を設置することが多くありますが、ほとんどの会社は設立の段階では取締役会を設置しません。
  • 代表取締役
    会社を代表する権限を有し、会社を代表して業務を執行する取締役です。代表取締役は株主総会で選任された取締役である必要があります。
    取締役会が非設置会社においては選任は任意ですが、対外的な必要性から通常は選任します。なお、社長やCEO=代表取締役の場合が多いですが、会社法上に”社長””CEO”という概念はないです。
  • 監査役
    取締役の職務執行を監査する機関です。取締役会を設置する場合は、監査役もしくは会計参与の設置は必須です。
    (ちなみに、”職務”は”業務”を含むより広い概念。会社法の事務である取締役会の招集などは職務には該当しますが、業務には該当しません)
  • 会計参与
    取締役または執行役と共同で計算書類等の作成を行う機関です。会計参与は公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人でなければなりません。
  • 監査役会
    全監査役で構成され、監査報告の作成や監査方針の決定などを行う機関です。監査役会の設置には、3名以上の監査役(うち半数以上は社外監査役)が必要です。大会社である公開会社は、委員会設置会社を除き、設置は必須です。
  • 会計監査人
    計算書類などの会計監査を行う機関です。なお、会計監査人は公認会計士または監査法人でなければなりません。大会社と委員会設置会社は設置が必須です。
  • 委員会
    監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の2種類があります。
    設置は任意ですが、監査等委員会設置会社が2015年より新たに導入された機関であり、広まりつつあります。
  • 執行役
    委員会設置会社において会社の業務執行を行う機関です。

3.株式会社設立時に考えられる機関設計のパターン

2.の監査役会、会計監査人、委員会、執行役は、大企業向けですので、設立時は2.の株主総会~会計参与の組み合わせのパターンのみ考えれば良く、考えうるのは以下の4つとなります。

(1)株主総会+取締役(+代表取締役)の特徴

設立時に最も選択されるのがこのパターンで、最もシンプルな機関設計です。以下のような会社に合っています。

a)社長以外に取締役や監査役等の役員になるような人材がいない

b)株主が少数で、意見が相違することは想定されない

→取締役会を設置していれば株主総会で決議する必要のない事項もあります。株主総会開催を柔軟に行えないような場合は注意が必要です。

c)外部からの増資の予定がない。

→VCなどの外部からエクイティによる資金調達をする場合は、取締役会の設置が求められることがあります。詳しくは後述します。

なお、日本政策金融公庫等からの創業融資の場合は、取締役会がなくとも特にマイナスになることはありません。

(2)株主総会+取締役(+代表取締役)+監査役の特徴

取締役会非設置のまま監査役のみを設置することにメリットがほぼないため、通常は選択しないと思います。

(3)株主総会+取締役会+代表取締役+監査役

この機関設計は、以下のような会社に合っています。

a)最低4人の役員(取締役3名、監査役1名)を揃えることができる。

→仮にベンチャーキャピタルから出資を受けると、必ず社外取締役を派遣されることになりますので、出資後に取締役会設置会社へ移行する場合もありえると思います。

b)取締役で重要事項を決めたい

→上述のとおり、取締役会を設置していれば株主総会で決議する必要のない事項もあります。

c)複数の役員による相互牽制機能を働かせたい

→業務執行の重要な事項は取締役会で決定することになりますので、社長の独断ができにくくなります。

d)外部からの増資調達の予定がある。

→外部から資金調達する場合は、取締役会の設置が求められることがあります。

(4)株主総会+取締役会+代表取締役+会計参与

会計参与は監査役に比較して要件が定められており(税理士か会計士)、報酬が高くなりがちですので、現状は広がっていませんし今後も広がらないと思います。

4.出資を受けたい・上場を目指したい株式会社の機関設計

アーリーステージの会社に対して出資を行うベンチャーキャピタルの財務デューデリジェンス(特にBS)は細かくは行いません。

理由としては、今現在の財務状況よりも、これからどのぐらい伸びそうかという将来の期待CFの方を重視するためです。そのため、売上高経常利益率などの教科書的な指標は役にたたず、LTV、CAC、ARRといったスタートアップに適した指標を重視しています。

もう一つの理由としては、1社数百万~数千万程度の投資だとすると、デューデリジェンスにコストをかける余裕もなく、受ける側の負担も相応にありますので、コストの制約からできないということが挙げられます。

では、実績値の信頼性をどう担保するかに関しては、一つ一つの情報が正しいかの検証は行わず、この情報を出している人や組織が信頼できそうかという観点から判断しますし、投資後の財務報告についても同様です。

そこで重要になってくるのは、会社の機関設計はどうなっていて、普段どういったチェック体制で運営されているのかということです。前者に関しては、最低限「取締役会を設置している」ことを求めてくるVCも少なくはないと思いますし、私も求められた経験があります。投資家の要望を見据えて、設立時や早い時点から監査役人材を探して取締役会設置会社を検討する必要が、場合によってはあると思います。

まとめ

会社の現在のステージや目指すところにより機関設計が変わってきます。

ベンチャーキャピタルから出資を受けて大きな成長を目指したい会社は、早い段階で成長ステージにあった機関設計を意識すべきです。

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