企業の手元資金とは?その適正額と運転資金の借入時の注意点




手元資金とは、仕入れや経費の支払いなどに使用できる流動性の高い資産を言います。現金・預金が代表的なものですが、すぐに売却・解約することができる有価証券や定期預金を含む場合もあります。

当事務所では、お客様に常に手元資金を高い水準を保つことを提案していますが、その手元資金の適正額と、手元資金を増やすためのポイントを解説します。

1.手元資金は、基本的にはあればあるほど良い

「手元資金は月商の○ヶ月分は確保すべき」という声をたまに耳にします。

しかし、これはおかしな話だと思いませんでしょうか?なぜなら、世の中の大半の会社は資金繰りに苦労しており、「理想とする数値はわかるけど、売上も利益もその水準になるような数字にないから、結果として手元資金も十分ではない」状態だからです。

世の中のほとんどの会社は、基本的には手元資金は多すぎるから悪いということはありませんのであればあるほど良いです。(この記事はスタートアップ・中小企業向けの情報ですので、上場企業など外部株主がいて配当を要求されるような場合は想定せずに話を進めます)

投資家から資金調達ができるような会社を除き、スタートアップ・中小企業のほとんどは、手元資金が十分ではないと感じるのならば、それを補うには融資が唯一の手段となります。下記では、手元資金を増やすためにどの程度の資金の融資を受けることができるのかを考えていきます。

2.「手元資金を増やすため」では融資は実行できない

お客様から、「融資を申し込みに行った際に資金の使い道を聞かれた時に、『手元資金を増やすため』と答えたら、担当者から『そのような目的での融資はできない』と言われた」というお声を聞きます。

実は、「手元資金を増やすため」という融資目的は銀行にはありませんので、借りる側で銀行が融資をできる目的に沿ったものとして、融資を申し込む必要があります。

借入をする側から見ると、なぜ運転資金なのに借してもらえないのかと不思議に思うかもしれませんが、貸す側では、「運転資金」の定義が明確に決められており、「手元資金を増やす」というのは、この運転資金の定義から外れています

なぜ、銀行は必要以上の融資ができないかの理由のひとつは、「手元キャッシュが潤沢にあり、設備投資も全く行う予定がない。」という企業に融資をした場合、余った資金が株式や不動産などの本業とは関係のないところにお金が使われる懸念が増すからです。バブル時代に本業以外の投機を行った企業が不振に陥り、貸した銀行では、多くの貸し倒れが発生し、損失となりました。(銀行側が助長していたという話もありますが。。)

3.銀行はどのようにして必要な運転資金を算出しているのか

銀行がプロパーで運転資金を融資する場合には、借り主である企業が必要な経常運転資金の額を算出し、この金額を大きく超えないようにしています。以下はプロパーで運転資金の融資を検討する場合の稟議書の例です。

融資の資金使途

所要運転資金5,000万円=営業上の売上債権4,000万円+棚卸資産3,000万円-営業上の買入債務2,000万円

調達額の算出方法

所要運転資金の調達6,000万円=既存貸出3,000万円+本件貸出3,000万円

このように、本当に必要な経常運転資金の額を算出するため、実需の範囲内でしか融資を受けられません。よって、プロパー融資で手元資金を増やすことは理論上困難です。

3.日本政策金融公庫・保証協会は運転資金の考え方が異なる

しかし、日本政策金融公庫や保証協会の運転資金の考え方は全く違います(正確には保証協会が融資をするのではなく、保証協会の保証を使った融資です)。こちらの運転資金の考え方は、「月商の〇か月分」というものです。業種や経営成績にもよりますが、概ね2か月程度です。保証付き融資で運転資金の融資を検討する場合の稟議書の記入例は以下となります。

【資金使途】
仕入、人件費などの諸払いに充当

【調達方法】
本件により全額

プロパーに比べるとものすごくアバウトです。月商の2か月をベースにしているため、実際に必要な経常運転資金の額より多くの融資を受けられる可能性さえあります。

5.手元資金を最大限にする方法

借入を活用して手元資金を増やす最良の方策は、プロパー融資と日本政策金融公庫・保証協会を併用することです。実際に必要な運転資金はプロパー融資で調達することができ、プラスして、日本政策金融公庫や保証協会の借入は、理論上、その分が全額手元資金に上積みされます。

6.まとめ

手元資金は可能な限り厚くして置くべきという考えを申し上げると、「利息の負担が増える」とおっしゃる方もいます。しかし、現在は超低金利で2%程度です。1,000万円を借り入れたとしても、その利息は年間20万円程度です。

これを高いとおっしゃる経営者の方は、本業の利益率や収益の改善に取り組まれるべきかもしれません。

同規模の事業をやっている会社であれば、手元資金1,000万円で借入が500万円と、手元資金2,000万円で借入が1,500万円の会社であれば、後者の方が圧倒的に倒産する可能性は低くなります。

本記事を参考に、ぜひ手元資金を厚くできるように銀行との継続的な交渉・取引を進めてください。







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