日本において一定規模以上の事業を行っている会社であれば、そのほとんどが銀行から借入を行っています。
この借り入れが返済不能となった場合には、銀行に対してどのように対処すべきでしょうか?通常の返済ができなくなった場合には色々と対処法はありますが、リスケジュールという返済を猶予してもらう手続きをとります。さらに、「事業が破綻している、利息すら払えない」という状況になると、次の対応が必要になります。
弊所ではお客様に積極的に借入を利用して頂くようにアドバイスさせていただいていますが、一方で、「事業がうまくいかない場合は最悪どうなるのか?」ということも知っておく必要はあると考えています。
今回は、返済不能となってしまった場合の流れについて解説します。
目次
1.まずは追加融資や借換えができないかを検討
これは、事業はうまくいっているけど、事業の特性上支出が先行するなどの理由により資金繰りが厳しい会社が検討することになります。「事業のポテンシャルとしてしっかりと返済できる」という説明ができれば、通常は追加融資や借り換えを行うことができます。
追加融資や借換えについて詳しくは、日本政策金融公庫からの追加融資で苦労しないための6つのポイントをご覧ください。
2.追加融資や借換えができなければ、リスケジュールを検討
(1)リスケジュールとは?
リスケジュールとは、金融機関への返済を一定期間猶予してもらうことで、経営の改善・安定化を図る施策で財務戦略の一つです。リスケジュール、リスケと呼びます。
リスケジュールとは予定を変更することで、その大半は、予定を延ばすことです。
(2)どのタイミングで交渉を開始するのか?
これは、「従来のスケジュール通りに返済が難しいことが判明した時点」ということになります。
このタイミングを逃さないためには、毎月のキャッシュフローの状況(=実績)や将来のキャッシュフロー(=予測)を把握しておく必要があります。
詳しくは、融資のリスケ・返済猶予をしてほしい時の対処法をご覧ください。
3.リスケが認められない場合はどうなるのか?
リスケが認められずに返済が滞ってしまうと、「延滞」となり返済を請求されることになります。リスケが拒絶された場合の流れは以下の通りとなります。
(1)信用保証協会分は代位返済が行われ、信用保証協会から請求を受ける
代位返済とは、債務者であるあなたに代わり信用保証協会が債権者である銀行等へ債務の弁済を行うことです。これにより債権(借入の返済を求める権利)が信用保証協会に移ります。
この後は会社の状況になりますが、担保不動産を処分したうえで事業を継続して返済することもあれば、返済額を小さくして返済期限を延期してもらって支払うこともあります。
(2)日本政策金融公庫・プロパー融資は、競売にかけられる
金融機関が講じてくる手段は、預金との相殺(日本政策金融公庫はありません)、担保不動産の競売です。不動産の競売とは、債務者から債権の返済を受けらなくなった債権者が、債務者が所有する不動産を裁判所の管理下で強制的に売却し、その売却代金から債務の支払いを受ける手続きです。
競売の手続きには相応のコストがかかりますので、ある程度の金額の回収が見込めるもののみが対象になります。ちなみに、競売に関しては最初は任意売却(債務者自身による競売)がおこわなれます。そのほうが銀行の回収が大きくなるからです。
(3)サービサーへの債権譲渡
サービサーとは、銀行から不良債権を譲り受けて債権の回収を行う債権回収の専門会社です。
サービサーへの債権譲渡が行われるのは、多くの場合リスケ拒絶から半年程度経ってからです。その間に系列サービサーが、督促や債務者の調査を行うことが多いようです。
4.サービサーとの債権免除の交渉
債務者にとっての、銀行等からサービサーへの債権譲渡のメリットは、債権譲渡価格以上の金額を返済して、残額を債務免除してもらえる可能性があることです。サービサーとしては、債権譲渡価格<返済額であれば、利益が出るからです。
残債務の一部返済を条件として、サービサーから債務免除をうけることをDPO(Discount Pay Off)といいます。債権譲渡価格は、以下の三点を考慮して決定されます。
- 債務者の返済能力
→決算書等から判断します。 - 担保の処分見込み価格
→担保評価額から判断します。 - 保証人からの回収見込額
→保証人の資産・収入から判断します。
仮にキャッシュフローがマイナスで、無担保無保証のような会社の債権については、かなりの低額で譲渡されます。銀行は早期に処分したいため、備忘価額の1円で譲渡されることさえあります。また、担保だけ残っている場合は競売になることに踏まえて評価額の7割程度となる可能性があります。
いずれにしろ、銀行等からサービサーからの譲渡価格が安いほど、サービサーとの債務免除交渉がしやすくなります。
5.会社をたたむしかなくなった場合は?
仮に、法人で社長がその連帯保証人になっている場合、通常は、会社の破産と社長個人の破産を同時に申し込みます。
しかし、会社だけ破産させて、個人は破産しないという選択肢もありえます。社長が自己破産すると財産の大半を処分しなければなりませんが、社長の債務は主に金融機関に対する保証債務ですから、破産しなくても対応できる可能性があります。
なお、今後の方向性としては、「会社である法人と社長である個人は別」という考え・方針が広まっていく可能性も高いと思いますので、社長の個人保証はなくなっていくのではないか(現実として今は多くありますが)と思います。私個人としても、起業する方を増やしていくためにも、社長の個人保証はなくなっていけば良いなと考えています。
6.自己破産のデメリット
最後に、社長個人が自己破産した場合のデメリットを簡単に挙げておきます。
- 自己破産後、約5~10年間は融資ができなくなる。(「ブラックリスト」にのる)
- 住所氏名が、「官報」に掲載される。
- 免責決定まで、我々のような税理士・会計士は登録を抹消される
まとめ
現実として倒産している会社は少なくはなく、上記のようなことは起こりえます。
しかし、起業して資金調達をした場合に、「最悪の場合どうなるか?倒産がほぼ確実になった場合はどのような対応が必要か?」は考えたくないものですが、知っておく必要はあります。
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