中小企業が多くの資金調達を行うためのポイント




創業して年数が浅い中小企業・ベンチャー企業の倒産するほぼ唯一と言って良い理由は、資金が尽きることです。

そこで重要になるのが資金調達ということになるわけですが、中小企業にとって、親族等からの支援以外は、「資金調達=金融機関からの融資」といっても良いと思います。

今回は、中小企業がより多くの資金を調達するためのポイントを解説します。

1.「無借金=良い」をまず捨てる

「借金は絶対にやらないポリシーだ。借金するぐらいなら倒産することを選ぶ」という方以外には、なるべく早いタイミングで借入をされることをオススメしています。なぜなら、以下のようなメリットがあるからです。

詳しくは、借り入れは悪いことなのか?無借金経営のメリット・デメリットをご覧下さい。

  • いざという時に、短期間で資金調達ができる
    既に借入をした実績がある金融機関で返済実績があれば、金融機関はそれほど審査に時間をかけずに融資を実行してくれます。また、新しい金融機関に融資を依頼しに行っても同様です。初回がハードルが高いため、初めて融資を受けるときに会社が苦しい状況だと、なかなか融資を実行してくれません。
  • 現預金残高を高水準に保つことで資金調達がしやすくなる
    金融機関は、現預金残高が少なく、半年後に倒産するリスクがある企業よりも、現預金残高が多く、何か不測の事態が発生したとしても生き残る可能性が高い企業に融資をしたがります。
  • 経営にレバレッジを働かせることができる
    金融機関の資金を使って利益を出してくれれば、株主にとっては自分たちが出す資金は少ないのに大きな事業をしてくれるので嬉しいわけです。ROEといった資本効率を測る指標も改善します。
  • 経営上の選択肢が増える
    資金が豊富にあれば資金的な課題は解決されるため、設備投資などの選択肢が増えます。

2.金利よりも金額を重視すべき

成長過程にある企業の資金調達の基本方針としては、金利よりも金額を重視すべきです。

安定期に入った企業は、投下資本に対する業績面の反応が鈍くなるため、調達額を増やして積極的に投資するより、調達コストを抑えて利益の拡大を図ることも時には必要です。しかし、スタートアップ、成長期の企業は、正しく投資をすれば即座に業績に跳ね返ってくるため、融資により資金調達する場合、金利よりも調達額を重視することをおすすめします。

(出資による資金調達は、ベンチャーの資本政策作成の目的と具体的注意点・手法もご覧下さい)

仮にA行から、金額1,000万円、金利2.0%の提案があったとします。一方、B行の提案は、借入金額が1,500万円で金利は2.5%です。A行の方が1,000万円あたりの金利は年間約5万円少なくなりますが、金利以上の利益率を残せる事業をお持ちならば、B行から1,500万円を借り入れて事業に費やした方が、キャッシュフローはプラスにすることができます。

よって成長過程にある企業の場合は、金利を下げる方法よりも、より多くの資金を調達する方法を知っておく方が役に立ちます。

3.既存の銀行(特にメガバンク)との取引にこだわらない

(1)(プロパー融資が出来始めたら)取引銀行を分散させる

創業期は、日本政策金融公庫か、信用保証付き融資に限定されます。しかし、仮に、年商が1億円を超えてそれなりのキャッシュフローが出せてくると、プロパー融資(信用保証協会の保証なしで金融機関が全リスクを取る融資)が選択肢に入ってきます。銀行との取引については、本業の売上先と同様に、1つに偏らせるべきではありません。リスクが大きいからです。

よく言われることではありますが、銀行の態度や融資方針は以下のような要因で簡単に変わってしまう可能性があります。

支店長が変わると融資姿勢が変わる

銀行の特徴として、「支店長が変わると融資姿勢が大きく変わる」があげられます。銀行は不正防止のために長くても5年程度で人事異動の周期に入ります。そして、支店長は支店の運営に関してはかなり大きな裁量が与えられていますので、「支店長が変わる=銀行が変わる」かのようになる場合があります。今までリスクを取るタイプの支店長だったたため、スタートアップであった貴社にも積極的に融資をしていたかもしれませんが、保守的なタイプの支店長になった途端に、貴社の担当の方がいくら頑張っても融資ができないことがあります。

貴社の規模、銀行の規模で相性がある

一般的には、メガバンクは、数百万程度の融資は行いませんし、それより多少大きい程度であってもプロパー融資はしません。一方で、日本政策金融公庫は創業初期の融資、信用金庫は数百万から数千万円程度の融資を最も得意とするところです。創業初期は、メガバンクには相手にされないと思って頂いて、公庫や(保証付きで)信用金庫から融資を引き出すのがメインになります。
上記のように会社の規模・ステージと銀行の相性は明確にありますし、同じ銀行でも大きな支店、小さな支店で取り扱うことができる決裁枠(支店だけで融資決定できる金額)が変わってきます。やはり、貴社に合う銀行・支店を複数確保しておくことが非常に重要になります。

銀行の「評価基準が違う」

融資を行う場合、全ての銀行が決算書のデータを「審査用分析ソフト」に入力して評価しています。どのように評価するかは共通する部分は多いのですが、銀行によっては、どの要素にどれだけの重みをおいているのかは多少異なります。自己資金を重視する、資産評価・価値を重視する、キャッシュフローを重視するなど、さまざまです。つまり、評価システムが合わないがために、融資を受けられない可能性があるのです。

(2)年商が数億円程度までなら信用金庫・地方銀行などの方がプロパー融資を出しやすい

大企業向けに大口の融資を行うメガバンク、地域に根ざした事業者に小口の融資を行う信用金庫など、金融機関の役割はそれぞれ違います。企業側も自社のステージに合わせて、付き合う金融機関を意識して選定することは重要です。以下は企業の成長ステージと調達手段の目安です。もちろん、個別事情、時期、地域によって異なりますが、概ね以下の通りの考え方となります。

(1)の相性や複数取引は、”年商1億円超”のステージから考え始める必要があります。

会社ステージ 取引金融機関
創業時 日本政策金融公庫、保証付き融資、協調での信用金庫プロパー融資
年商1億円超 信用金庫プロパー融資
年商3億円超 地方銀行プロパー融資
年商10億円超 メガバンクプロパー融資

(3)信用金庫の方が多くの融資を獲得できた実例

より多くの資金を調達する方法を、実例を使ってご確認いただきます。

(下記は、当事務所が正会員として所属する一般社団法人銀行融資プランナー協会の実例です)

S社は、2期目が終わった時点で、メガバンクのプロパービジネスローン1,000万円の融資を受けています。3期目の期中に、地方銀行の担当者より、保証付き融資の提案を受けました。しかし、S社は、既に取引のあるメガバンクに依頼するのが筋だと考え、地方銀行の提案を断って、メガバンクで1,000万円の保証付き融資を受けました。

S社は大変利益率の高いビジネスを行っており、3期目の業績は絶好調でした。S社は、次の資金調達のタイミングである3期目の決算後は、保証協会の保証付き融資で5,000万円以上の調達も期待できるような状況でした。

問題はどこの金融機関で調達するかでした。

金利を重視するならばメガバンクに申し込みますが、メガバンクの場合は、保証協会が承認した金額を融資して終わりです。なぜなら、新規取引のキャンペーンでプロパービジネスローンを最初に出してくれましたが、S社は、まだまだメガバンクが本格的にプロパー融資を検討する規模には至っていなかったからです。

より多くの金額を調達するならば、プロパー融資を検討してもらえる地方銀行、信用金庫に申し込みます。3期目の決算は好決算になる見込みであることを説明し、保証協会の枠を与える代わりにプロパー融資を検討してもらうよう依頼します。保証協会の調達額はどこの金融機関を経由しても基本的には同じですので、そうすることでプロパー融資の分だけ調達額は多くなります。

S社の場合も、地方銀行にお声掛けしたところ、決算後に保証付き融資を申し込むことを前提として、プロパー融資1,000万円を決算前に出してくれました。

まとめ

本サイトで繰り返し言っていますが、融資を積極的に行うことにより現預金残高を高い水準に保つことが重要です。そのため創業初期の段階から、資金的な余裕が多少あっても、積極的に銀行との付き合いをはじめるべきです。その際には、金利よりも金額の大きさを優先させることをオススメします。

また、付き合う金融機関は会社ステージによって違いますし、一定規模になれば複数の金融機関と付き合うようにしてリスクを分散させるようにしましょう。







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