ブログ

売掛金に貸倒損失・貸倒引当金が発生した場合の消費税

売掛金に貸倒損失が発生した場合、消費税の納税額の計算上、その売掛金の消費税分は控除することができます。

消費税の計算の全体像から、基本的な控除をするための要件、税法上の貸倒の要件、実際の仕訳、そのほかの留意点について見ていきます。

1.消費税全体の仕組み

消費税の納税額は基本的に以下のとおり計算されます。

(①預かった消費税等-②支払った消費税等)×税率=国に納める消費税

”②支払った消費税等”は、以下の3つに区分されます。

  • 控除対象仕入税額
  • 返還等対価にかかる税額
  • 貸倒れにかかる税額

最終的な納付税額は以下のとおり計算されます。

控除対象仕入税額控除対象仕入税額の計算方法には、一般課税という原則的な方法や簡易課税という規模の小さな事業者のみが選択できる方法がありますが、いずれにしろ、今回解説する”貸倒れにかかる税額”を計算する必要があります。

2.掛売りは、現金での回収の前に「預かった消費税」にカウント

(1)売掛金が発生した時点で「預かった消費税」にカウント

消費税が伴う売上が生じた場合には、まだ売掛金の代金が回収がされていない場合でも「預かった消費税等」にカウントされます。
しかし、その債権が貸倒れてしまい回収することができなかった場合には、実際には消費税を預かることができないわけですから、貸倒れが生じた年度の消費税額から差し引くことができることになっています。

(2)貸付金は対象外

売掛金などの売掛債権が貸倒れとなった場合、貸し倒れが生じた期間の消費税から控除します。
一方、貸付金などの貸付債権が貸倒れとなった場合、控除することはできません。なぜなら、貸付金などの貸付債権の発生時に、消費税は発生しないからです。土地売却の未収金、非課税売上の売掛金なども同様です。

(3)免税事業者だった場合も対象外

また、免税事業者が課税事業者になった場合は、免税事業者であった間に発生した売掛金などの売掛債権が、課税事業者になった後、貸し倒れても控除することはできません。なぜなら、その売掛金などの売掛債権は免税事業者であった間に発生しているため、そもそも消費税を納めてないからです。

3.貸倒れに係る税額控除

税法上、貸倒れはいつ時点で認識して良いかが問題となります。なぜなら、早めに認識してしまったほうが、税額が低くなり納税者側で有利なためです。税法上はいつ時点で認識して良いかが定められており、納税者側で勝手に「もう回収できない」と判断してはいけないことになっています。

(1)法律上の貸倒れ

次のような、法律上で債権が消滅した場合には、過去に納付した消費税額分を、その債権が消滅した期間の消費税額から控除することができます。

  • 会社更生法の規定による更生計画認可の決定により債権の切捨てがあったこと
  • 民事再生法の規定による再生計画認可の決定により債権の切捨てがあったこと
  • 会社法の規定による特別清算に係る協定の認可の決定により債権の切捨てがあったこと
  • 金融機関等の更生法の規定による更生計画認可の決定により債権の切捨てがあったこと

(2)経済的に回収できないもの等

次のような、法令の規定による整理手続きによらないものも、過去に納付した消費税額分を、その事実があった期間の消費税額から控除することができます。

  • 債権に係る債務者の財産の状況、支払能力等からみて債務者が債務の全額を弁済できないことが明らかであること
  • 関係者の協議決定により債権の切捨てがあったこと
  • 債務者の債務超過の状態が相当期問継続し、その債務を弁済することができないと認められる場合において、書面により債務免除を行ったこと

(3)実質的な貸倒れ

次のような、実質的に貸倒れたものも、過去に納付した消費税額分を、その事実があった期間の消費税額から控除することができます。

  • 債務者につき次の事実が生じた場合において、その債務者に対して有する債権につき、事業者がその債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして経理したこと
    (イ)継続的な取引を行っていた債務者につき、資産の状況や支払能力等が悪化したことにより、その債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時がその取引を停止した時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(担保物がある場合は除かれる)
    (ロ)同一地域の債務者について有する債権の総額がその取立てに係る費用に満たない場合において、その債務者に対し支払を催促したにもかかわらず弁済がないとき

3.貸倒れが発生した場合の実際の仕訳

掛けの売上計上があり、その後に貸倒れがあった場合の仕訳です。

貸倒引当金を計上する場合も多いと思われるため、貸倒引当金を計上する場合と、直接貸倒損失を計上する場合の2例を解説します。

貸倒引当金を計上するタイミングでは消費税の控除はできず、貸倒損失を計上するタイミングで消費税の控除を行います。

(1)貸倒引当金→貸倒損失を計上する場合

・1,080の掛売上あった。

借方 貸方
売掛金 1,080 売上 1,000
仮受消費税 80

・上記の売掛金について、回収不能となる可能性が高くなったため、全額の貸倒引当金を計上した。

借方 貸方
貸倒引当金繰入額 1,080 貸倒引当金 1,080

・上記の売掛金につき、回収不能となったため、貸倒処理をおこなった

借方 貸方
貸倒引当金 1,080 売掛金 1,080
仮受消費税  80 雑収入 80

※仮受消費税の相手科目は、”雑収入”が適当であると考えています。なお、

本サイトでは、”財務に強い決算書を作る”という観点からは、貸倒引当金の洗い替え処理はオススメしていません。なぜなら、貸倒引当金戻入益という特別利益を計上することにより、経常利益や営業利益が悪化するためです。

(2)貸倒損失を計上する場合

・1,080の掛売上あった。

借方 貸方
売掛金 1,080 売上 1,000
仮受消費税 80

・上記の売掛金につき、回収不能となったため、貸倒処理をおこなった

借方 貸方
貸倒損失 1,000 売掛金 1,080
仮受消費税  80

4.貸倒の消費税の処理をする上での注意点

(1)簡易課税制度であっても認められる

簡易課税制度(「事業を開始当初こそ知っておきたい。消費税の簡易課税と原則課税の違いとは?」を参照」であっても、控除することができますので、忘れないようにしてください。

(2)控除するときの税率について

控除が認められる金額は「過去に納めた消費税額」をもとに計算されるため、例えば消費税が5%だったときの債権については、5%で計算します。

(3)貸倒処理した後に回収できた場合

貸倒れによる税額の控除を受けた債権について、その後回収することができた場合、そ消費税の相当額については改めて納め直す必要があります。

(4)売上値引、割戻、割引は?

売上値引、返品、割戻割引も、1.の図に記載のとおり、「返還等対価にかかる税額」として控除できます。これは、会計上で既に差し引いいているかどうかで処理が異なってきます。

課税標準額 返還等対価
総額(値引き等を引いていない) 値引き等控除前の金額 値引き等の金額
純額(値引き等を引いている) 値引き等控除後の金額   -

5.まとめ

今回は、貸倒れに関する消費税の計算の概要について説明しました。

説明した各項目に、「こういうものがあったな」と覚えておくと、申告の際に、控除漏れや誤りを防ぐことができます。

以上、創業融資・ベンチャー起業・開業を支援する渋谷・港区の税理士・公認会計士の東京スタートアップ会計事務所でした。

スポンサードリンク

関連記事

コメントは利用できません。




ページ上部へ戻る