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貸倒引当金とは?法定繰入率、会計と税務の違いについて解説

ZOZOツケ払い開始1年、決済代行会社の「貸倒引当金」急増

上記の貸倒引当金に関する記事が最近話題になりました。

貸倒引当金の概念については、ほとんどのビジネスパーソンの方はなんとなく理解されていると思いますが、この記事をご覧になった皆様は貸倒引当金についてしっかりと理解し、他人に説明できるでしょうか。

今回は、この貸倒引当金の意味や種類、具体的な会計処理方法について解説します。

1.貸倒引当金とは?

(1)そもそも貸倒引当金とは?

売掛金や貸付金などの債権は、会計(ここからしばらくは会計=税務として書きます)で計上したものを全て回収できるとは限りません。

会計においては、売上計上は現金を回収した時ではなく、その売り上げが”発生”したときに売上の会計処理を行います。

”発生”とはどういうことかについて例をあげます。居酒屋で飲食が終わって、常連のお客さんはお金を払わずツケで帰ったとします。居酒屋としては、飲食をした時に既にサービスの提供が終わり、具体的なお客さんへの請求金額が確定していますので、居酒屋側のあるべき会計処理としては、飲食をしたその日に売上を計上します。ツケを回収した日ではありません(一般の会社では、飲食提供を”商品の納品”や”サービスの提供”に置き換えます)

このツケのように顧客に対する売上金額の請求権を売掛金と呼びます。ただ、この売掛金が全て回収できるわけではなく、回収できない場合はその居酒屋や企業の負担となります。この売掛金等の債権を回収できない将来の可能性に対して、売上計上を行った期に予めその回収不能分を予測し費用処理することを、貸倒れに対する引当計上といい、会計上の科目は”貸倒引当金”を使います。よく、”回収不能に備えて貸倒引当金を積んでおく”と言ったりします。

(2)貸倒引当金の読み方は?

貸倒引当金とそれに関連する勘定科目の呼び方は以下のとおりです。

貸倒引当金→かしだおれ ひきあてきん
貸倒引当金繰入額→かしだおれ ひきあてきん くりいれがく
貸倒引当金戻入額→かしだおれ ひきあてきん もどしいれがく

2.税務の貸倒引当金の種類

ほとんどの会社は税法で定められた方法で貸倒引当金を計上しています。”引当金が増える=経費が増えて税金が少なくなる”ということですので、会社側に任せて自由に引当金を積むと会社のコントロールで税金を安くできてしまうことになりますので、法人税法でその限度額を定めています。

一方、上場会社などは税法とは別に”金融商品の会計基準”に沿って、引当金を計上を行っています。各決算ごとに”金融商品の会計基準”に沿って見積もりを行うと、ほとんどの場合、(個別債権に対するものは)税法で定められた金額よりも貸倒引当金が大きくなります。この会計と税務の違いが発生した場合は、税務申告書で差額を調整して法人税の金額を固めることになります。

(1)税法で定められた2つ種類の債権

税務では、貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して計算することとされています。

個別評価金銭債権は、債務を持つ側の企業(得意先や資金提供先)の財政状態などから回収できない可能性がかなり高いもの、一括評価金銭債権は個別評価金銭債権以外の債権となります。

(2)個別評価金銭債権とその引当金計上額

個別評価債権については、以下の事由ごとに貸倒引当金を計上できる金額が定められています。

①会社更生法の規定による更生計画認可の決定等の一定の事由が生じたことによりその弁済を猶予等された場合

貸倒引当金額=”対象債権”ー”5年内に返済されることになっている金額”ー”担保等での取立て等の見込み額”

なお、「一定の事由」とは次の決定等をいいます。

イ  会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画認可の決定
ロ  民事再生法の規定による再生計画認可の決定 など

②債務超過、経営成績などから実質的に取り立て見込みがない場合

貸倒引当金額=”対象債権”ー”担保等での取立て等の見込み額”

なお、債務超過はその状態が1年を超えているなどの条件があります。

③会社更生法の規定による更生手続開始の申立て等の一定の事由が生じている場合

貸倒引当金額=”対象債権”ー”担保等での取立て等の見込み額”×50%

なお、「一定の事由」とは次の決定等をいいます。

イ  会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の申立て
ロ  民事再生法の規定による再生手続開始の申立て など

3.一括評価金銭債権とその引当金計上額

一括評価金銭債権については、以下のステップで貸倒引当金を計算します。

ステップ1:繰入率の基礎の理解

一括評価金銭債権の貸倒引当金は、”期末の債権額×繰入率”で算定します。繰入率は2つの算出方法がありますが、繰入率が高いほど引当金が多くなり、利益が減り、税金が小さくなるため、一般には2つのうち高い方を採用します。なお、法定繰入率の採用は中小法人(期末資本金が1億円以下)のみ認められています。

ステップ2:貸倒実績率の算定

貸倒実績率法とは、過去3年間に実際に発生した貸倒損失の金額に基づき、法人税法では以下の算式で貸倒実績率を算定し、貸倒引当金を求めます。なお、貸倒損失、戻入額が何かについては下記の参考をご参照ください。

貸倒実績率={(ⅰ+ⅱ-ⅲ-ⅳ)×(12/各事業年度の合計月数)}÷ⅴ
ⅰ: 3年分の貸倒損失の合計額
ⅱ:3年分の個別評価金銭債権分の引当金繰入額
ⅲ: 3年分の個別評価金銭債権分の引当金戻入額
ⅳ:適格組織再編成による引き継ぎを受けた貸倒引当金の金額
ⅴ:3年分の一括評価金銭債権の合計額÷事業年度の数(通常は3年)

ステップ3:法定繰入率と貸倒実績率の比較(中小法人のみ)

法定繰入率と貸倒実績率を比較し、高い方を採用します。なお、法定繰入率は業種ごとに以下の通り定められています。

・卸・小売業・料理飲食業…10/1000
・製造業(電気業・ガス業・水道行など)…8/1000
・割賦販売小売業…13/1000
・金融・保険業…3/1000
・その他事業(サービス業・不動産業など)…6/1000

ステップ4:期末債権の集計

一括評価金銭債権の対象は売掛金だけではありません。以下が該当する主な金銭債権です。

  • 売掛金、貸付金、それらに係る受取手形
  • 譲渡代金や請負料、地代家賃などのうち益金として算入した未回収金
  • 他人のために支払った立替金(例外あり。詳細は法人基本通達11-2-18の(4)を参照)
  • 益金として算入したにもかかわらず、まだ受け取っていない損害賠償金
  • 保証人として債務の弁済をした場合における求償権
  • 先日付小切手
  • 延払基準を税務処理として採用した場合の割賦未収金等

なお、「保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権」などは一括評価金銭債権に該当しないので注意してください。

ステップ5:期末債権×繰入率で貸倒引当金の計算

最後は、期末債権に繰入率を乗じて貸倒引当金の計算をします。

参考:貸倒損失、貸倒引当金戻入益

①貸倒損失

貸倒損失は以下のようなものです。貸倒引当金は”回収不能の可能性があるもの”についての費用計上ですが、貸倒損失は”実際に回収不能になったもの(なったものをみなして良いほど回収可能性が低いものを含む)”についての費用計上です。

・金銭債権が切り捨てられた場合の以下の金額

会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
債権者集会の協議決定などにより切り捨てられた金額
書面で債務免除通知を受けた金額

・金銭債権の全額が回収不能となった場合の全額
資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合

・一定期間取引停止後弁済がない場合等の全額
1年以上取引や返済がない
同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない

②貸倒引当金戻入益

貸倒引当金は”回収不能の可能性があるもの”についての費用計上するものですので、実際に回収できるものもあります。その場合は、貸倒引当金戻入益という収益の科目を使います(後述の通り、貸倒引当金戻入益を使わず、貸倒引当金繰入額のマイナス処理をする場合もあります)

4.貸倒引当金の会計処理。税務との違い。

税務上は債権の種類を2つに区分しているの対して、会計は3つに区分しているのが特徴です。税務の一括評価債権が会計の一般債権、税務の個別評価債権が会計の貸倒懸念債権、破産更生債権と似た概念になります。

税務上の一括評価債権と会計の一般債権の貸倒引当金は一致する場合が多いです。これは、法人税法で定められた一括評価債権の実績率の計算方法や債権の範囲が、会計基準で定められた実績率の計算方法や債権の範囲が一致することが多いためです。

一方、税務の個別評価債権が会計の貸倒懸念債権、破産更生債権と似た概念になりますが、金額が異なる場合が多いです。会社の見込みとしてほぼ回収できないと判断して会計上で引当金を計上しても、税務上では上記で挙げた条件を満たさないと(実務上満たすことは難しく積極的に計上すると税務調査で否認されるリスクがあります)引当金計上ができないためです。

税務 会計
一括評価債権 一般債権
個別評価債権 貸倒懸念債権
破産更生債権

5.貸倒引当金の会計処理方法

貸倒引当金の会計処理方法は以下のとおりです。

(1)初年度

初年度は以下の通りとなります。貸倒引当金は、3.で計算した金額になります。ここでは10万円とします。

借方 貸方
貸倒引当金繰入額 100,000 貸倒引当金 100,000

なお、通常は、貸倒引当金繰入額は販売費及び一般管理費(貸付などの営業外取引に係る債権に対するものは営業外費用)、貸倒引当金は資産のマイナス(もしくは負債)として処理します。

(2)2年目以降(洗替法)

2年目以降の処理方法は2つあり、一つが洗替法です。前年分を一旦リセットし、今年の分を全額計上する方法です。

ここでは、3.で計算した金額が20万円とします。

借方 貸方
貸倒引当金 100,000 貸倒引当金戻入額
(貸倒引当金繰入額)
100,000
貸倒引当金繰入額 200,000 貸倒引当金 200,000

1行目で、前年分を戻し、2行目で今年の分を計上します。

(3)2年目以降(差額補充法)

2つ目が差額補充法です。前年分と今年の分の差額を計算して計上する方法です。

ここでも、3.で計算した金額が20万円とします。

借方 貸方
貸倒引当金繰入額 100,000 貸倒引当金 100,000

1行目で今年と去年の差額分(20万円ー10万円=10万円)の分を計上します。

(4)どちらが有利か?

結論からいうと、どちらでもOKです。法人税額は変わりません。

計上区分により営業利益が改善するとおっしゃる方もいらっしゃいますが、厳密に現状の会計基準を適用すると、戻入額に該当するものは”繰入額を計上した区分で戻入れなさい”というルールがあるので、このやり方をすると計上区分の違いも出ず、結果が変わりません。(場合によっては、貸倒引当金繰入額がマイナスにもなりえますが、詳細は割愛します。)

ですので、現状の会計基準通りに、貸倒引当金戻入額(もしくは貸倒引当金繰入額がマイナス)を、前期以前に計上した区分で計上してもらえればどちらでも結果は同じです。

なお、営業外取引(例えば他社への貸付金)は、繰入・戻入れともに営業外取引になりますので、ご注意ください。

まとめ

貸倒引当金についてご理解頂けましたでしょうか

関連した記事を読む際や予算会議、実際の会計処理などで参考にしてください。

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