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役員報酬の決め方と変更時に注意したい5つのポイント

取締役の給与である役員報酬は会社法と税務上の一定のルールに従う必要がありますが、”株主の承諾を得た上で役員自身が決めるもの”というのが基本的な考え方です。

報酬をいくらに設定しどのような手続きを行えば問題がないかは、会社法および税法に準拠しているかが重要なポイントになります。

全ての会社について、税法を守り役員報酬を使った節税について検討する必要があります。一方で、会社法に関しては、設立間もない会社は、ほとんど起業された社長が100%株主ですので、会社法への準拠は手続き面以外は強く意識する必要がなく、外部株主がいる会社は、会社法への準拠を強く意識する必要があります。

1.役員の生活に必要十分な金額か

当然ですが、まずは生活するために必要な金額がいくらかを把握する必要があります。以下の手順に確認していきます。

(1)現時点の預金がいくらあるのか

全財産を出資しない場合には手元現預金もあるはずですので、手元現預金がいくらあるのかを把握します。

(2)当面の生活資金はいくら必要なのか

2年経てば会社の状況も大きく変わりますので、当面の生活資金を算定するうえでの算定期間は、2年で計算するのが良いと思います。

(3)1年当たりの必要な報酬を算出

(1)、(2)の数字から、足りない資金が算出されると思いますので、必要な役員報酬を算出します。”役員報酬”というと税金や社会保険料が差し控えれる前の金額を指しますので、税引き後の金額を別途計算する必要があります(ご自分でも出来る程度に簡単なものです)。家族構成等によって異なりますが、年間報酬額が500万円前後であれば手取りは8割程度です。

なお、社長の生活資金を確保する方法として、報酬ではなく貸付を行うというやり方もあります。社長の個人資産の大きさや会社の状況によりますが、オススメはしていません。会社は返済能力のある人にしか貸付を行うことはなく、返済能力の乏しい設立直後の会社の社長への貸付は外部から見ると非常に印象が悪いです。いわゆる利益相反取引に該当し、資金調達をする際に公私混同しているように見えてしまいますので、要注意です。

2.会社法上の手続きとして株主の承認を得られているものか

社長が100%株主の会社は、社長自身が節税の観点から法人税・所得税等が最も安くなるように役員報酬を決定します。実

ただし、本来の会社法上の建付けは、取締役(社長やその他の役員)は会社の最高意思決定機関である株主総会から委任されて会社を経営する立場にあります。その報酬についてはお手盛り弊害防止(役員が自由に報酬を決めて会社財産を毀損して株主利益を損なうことを防ぐこと)のため、定款で定める、もしくは、株主総会の決議が必要とされています。すなわち株主の合意があることを形に残することが必要です。詳しくは「税務調査・資金調達で困らない役員報酬に関する議事録の残し方」をご参照ください。

会社法上は、通常の役員報酬については(1)か(2)のいずれかの手続きが求められており、対象は社長に限らず役員である取締役全員です。また、役員に貸付をおこない場合は(3)の手続きが求められます。外部株主がいる会社は、”委任されて会社を経営する立場”を強く意識し、この会社法の手続きを行う必要があります。

(1)定款で定める

この方法を最初からとる場合には、設立の際の定款作成に盛り込んでおきます

設立時に定款に記載していなくとも、途中から定款変更により役員報酬に関する条項を加えることもできます。ただし、報酬を変更をするときや新たに定款に記載する場合には、”定款変更”の手続きが必要になり、これは、株主総会の特別決議が必要となります。(2)の手続きに比べてより厳格になってしまいます。

(2)株主総会の決議

株主総会の決議で定める場合には、設立時と変更時にそれぞれ決議が必要になります。

報酬は個別の金額を決定することもできますし、総額だけを決定して個別の金額は代表取締役に一任するというやり方もあります。

(3)社長への貸付

社長に貸付を行う場合は利益相反取引に該当しますので、取締役会設置会社であれば、取締役会による承認の決議、取締役会を設置していない場合は、株主総会の承認の決議が必要です。

3.役員報酬を使った節税とはどういうことか?

日本の税制では、所得税は所得が高いほど(課税の対象となる金額が大きいほど)税率は高くなり、法人税は特例部分を除き税率は一定です。

例えば、会社の所得が役員報酬を差引く前が1,000万円だとします。役員報酬を0にすれば、社長の所得税の課税対象0円、法人税の課税対象が1,000万円になります。また、役員報酬を600万円にすれば、社長の所得税の課税対象600万円、法人税の課税対象が400万円になります。

このように、役員報酬の設定次第で、課税対象を所得税と法人税に分散させることができます。実際の税率は以下のとおりになります。(下記の”法人税等”は地方税も含む税率です。また、所得税は給与所得控除等は加味していません。)

所得金額 所得税 法人税等
0-195万円 5% 約21%
195-330万円 10% 約21%
330-400万円 20% 約21%
400-695万円 20% 約23%
695-800万円 23% 約23%
800-900万円 23% 約34%
900-1800万円 33% 約34%
1800-4000万円 40% 約34%
4000万円- 45% 約34%

上記の表で、役員報酬は600万ぐらいにすると、所得税が20%、法人税が21%(1000万円-600万円で所得が400万円)とご理解頂けると思います。

これに給与所得控除、住民税、控除額等も加味したシミュレーターを使えば、簡単に税率が最もや安くなる理論上の役員報酬が算出できます。

4.役員報酬で損金算入できるものは限定的

法人税法上は役員報酬を経費にできる(以下、”損金算入できる”と言います)範囲は限定されており、上記のシミュレーション通りにいかない場合があります。これは、シミュレーションのとおり、決算が見えた時点で、法人税と所得税の税率を見ながら、トータルで税金が一番安くなるように役員報酬が調整ができてしまうと、国としては徴収する税金が減ってしまうからです。これを防止するために一定のルールを定めています。

法人税法上、経費として認められる(損金算入できる)ものは以下のものに限定されています。また、いずれの場合も2.(1)もしくは(2)の手続きを行っていることが損金算入の条件となります。

①定期同額給与:毎月一定の時期に定額で支払われる報酬。ほとんどの場合、これに当てはまるように決定します。
②事前確定届出給与:事前に税務署に届出をしてその届出通りに支給される報酬。従業員向けの”基本給の2ヶ月分を賞与”と同じようなもの
③利益連動給与:利益に応じて支払われる報酬。大会社向けで、中小の会社は使えない。
④ストックオプション:自社株を一定の金額で購入する権利
⑤使用人兼務役員の使用人部分の給与のうち相当なもの:後述
⑥役員退職金:退職時に支払われるもの

(1)定期同額給与とは?

役員に対して、毎月同じ時期に同じ金額が支払われる報酬については、損金算入が認められています。この毎月同じ時期に同じ金額が支払われる報酬を定期同額給与と言います。ほとんどの会社が定期同額給与に該当するように役員報酬を設定しています。

定期同額という名前だけに変更できるタイミングは限られており、変更する場合は注意が必要です。変更する場合は、”期首から3ヶ月以内”に行う必要で、それ以外の期間での変更は一部の報酬を損金算入ができなくなります。

例えば、期の後半から”業績が良さそうだから10万円増額しよう”として変更した場合には、増額分10万円は損金算入できず、増額前の月額×12ヶ月分しか損金算入できません。逆に期の後半から”業績が悪そうだから10万円減額しよう”として実際に変更した場合には、減額前の10万円は損金算入できず、減額後の月額×12ヶ月分しか損金算入できません。

(2)事前確定届出給与とは?

事前に税務署に届出をしてその届出通りに支給される報酬のことです。

従業員向けに、年俸を16ヶ月に分割して、基本給の2ヶ月分の賞与を年2回支給するのと同じようなものです。届出が必要なことと、期の最初に決めないといけない点は定期同額給与と変わりはありませんので、メリットを感じません。

(3)利益連動給与とは?

利益に応じて支払われる報酬です。大会社向けで、中小の会社は実質使えませんので、解説は割愛します。

(4)ストックオプションとは?

自社株を一定の金額で購入する権利です。ストックオプションは税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションがあります。そのうち税制適格ストックオプションは給与とはなりませんので、損金算入はできません。一方で、税制非適格ストックオプションは役員にとって給与となる部分は損金算入ができます。具体的には権利行使価額と権利行使時の時価の差額部分は給与となり損金算入ができます。

(5)使用人兼務役員の使用人部分の給与のうち相当なもの

これは、社長以外に取締役がおり、その取締役が一定の要件を満たす場合に使えます。社長は使用人兼務役員にはなれません。社長以外にも使用人兼務役員にはなれない者が規定されています。詳しくは「国税庁HP:使用人兼務役員にはなれない人」をご覧下さい。

「取締役営業部長」のように、使用人兼務役員とすると、その者に従業員として支払う賞与や期中の増額は損金にすることができます。従業員部分に関しては(1)ー(3)のルールに縛られません。

(6)役員退職金

合理的な金額であれば損金として認められるとされています。

ただし、不相当に高額な役員退職金は損金算入が認められいません。法人税法では役員退職金の具体的な計算方法は示されいませんが、退職金は役員在任期間の功績に対して支払われる報酬という側面がありますので、合理的な金額とは在任期間・役員報酬額・功績などを考慮して決められる事が一般的です。

5.社会保険料について

これは従業員に対しても言えるのですが、役員報酬などの給与が増えれば増えるほど、会社も個人も社会保険料の負担が大幅に増加します。

これは多く払ったからといって、保険内容が手厚くなるものではありません。また、将来に年金として回収できる額が社会保険料の納付額よりも遥かに少なくなる可能性は高いというのも現実です。

そのため、意見は分かれるところですが役員にとっては社会保険料は低く抑えておいた方が良いとも言えます。従って、役員報酬を決める際は、「会社で払う法人税」「個人で払う所得税」「双方で払う社会保険料」のバランスを見て決めるのが最も理想的だと言えます。

6.まとめ

役員報酬を決定するときには、必要十分な金額なのかという観点の他に、会社法や税法に準拠している必要があります。

また、税法で経費として認められる範囲は限定的であるため、基本的には役員報酬を全て経費として認められるように、税法を守り手続きを行う必要があります。

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