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起業したら検討すべきな小規模企業共済のメリット・デメリット

個人事業主は法人と比べると節税方法が少ないのですが、個人事業主の節税を考えたときに最初に検討したいのが小規模企業共済です。

掛金を支払ったときも、共済金を受け取ったときも節税効果があります。事業が継続する限り、リスクの少ない節税方法と言えます。

1.小規模企業共済のメリット

(1)小規模企業共済の掛金分が所得控除になり節税になる

限度額月7万円の掛金分は、全て所得控除の対象になります。

個人事業主であれ、法人役員であれ、所得が大きいほど節税効果が大きいです。なお、個人事業主の方が法人成りしてその会社の役員になっても継続することができます。

(2)受取る共済金が「退職所得」となる

廃業した時や退職した時、事業を譲渡した時などに共済金として受け取ることができます。

受け取り方法は、①一括して受け取る、②年金のように分割して受け取る、③2つを併用して受け取る、を選択することができます。

掛け金の納付期間が5年以上であれば、受け取る共済金は払い込んだ掛け金を上回ります。(任意で脱退する場合は20年以上。詳細は後述)

一括で受け取る場合は、退職所得として扱われるため、税金が優遇されます。分割で受け取る場合は、公的年金等の雑所得として扱われるため、こちらも税金が優遇されます。

節税メリットが大きいのは、退職所得として一括で共済金を受け取る場合です。

事業所得と退職所得を比較すると、退職所得は1/2をかけ算するのでかなり有利です。

事業所得の計算 収益-費用
退職所得の計算 (退職金-控除額)×1/2

(3)最大120%相当額が共済金として戻ってきて、退職金の代わりになる

掛金の納付期間や共済金の請求事由によって異なりますが、最大120%相当額が共済金が戻ってきます。

共済金の大きさは、共済金A>共済金B>準共済金>解約となります。退職や廃業といった制度の本来の趣旨に合致するものほど共済金が大きくなる仕組みになっています。

個人事業主の方は退職金がありませんが、この制度を利用すれば共済金は退職金の代わりになります。

①掛金月額1万円で、平成16年4月以降に加入した場合の共済金

返戻率は、共済金A>共済金B>準共済金>解約で大きくなり、納付年数が長いほど大きくなります。

掛金納付月数 掛金残高 共済金A 共済金B 準共済金
5年 60万円 62.14万円 61.46万円 60万円
10年 120万円 129.06万円 126.08万円 120万円
15年 180万円 201.1万円 194.04万円 180万円
20年 240万円 278.64万円 265.88万円 241.95万円
30年 360万円 434.8万円 421.18万円 383.27万円

解約手当金は、掛金納付月数に応じて、掛金合計額の80%~120%相当額がお受け取りいただけます。掛金納付月数が、240ヶ月(20年)未満の場合は、掛金合計額を下回ります

②個人事業主の場合の共済金の請求理由区分

以下の表は、共済金A、共済金B、準共済金、解約手当金がそれぞれどのような場合に該当するかの説明です。

H27年度の改正により、条件が緩和されました。共済金Aや共済金Bに区分されやすくなりました。

共済金等の種類 請求事由
共済金A ・個人事業を廃業した場合(※1)
・配偶者・子以外に個人事業の全部を譲渡した場合
・平成28年4月1日以降に、配偶者・子に個人事業の全部を譲渡した場合
・共済契約者の方が亡くなられた場合
・全額金銭出資により個人事業を法人成りした場合(※2)
共済金B ・老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだ方)
準共済金 ・平成28年3月31日以前に、配偶者・子に個人事業の全部を譲渡した場合
・個人事業を法人成りして、その法人の役員にならなかった場合(※3)
・金銭以外の出資により個人事業を法人成りして、その法人の役員にならなかった場合(※2)
解約手当金 ・任意解約
・機構解約(掛金を12ヶ月以上滞納した場合)
・個人事業を法人成りして、その法人の役員になった場合(※3)(※4)
・金銭以外の出資により個人事業を法人成りして、その法人の役員になった場合(※2)(※4)

※1複数の事業を営んでいる場合は、すべての事業を廃止したことが条件となります。

※2平成22年12月末以前に加入(平成23年1月以降に請求事由が発生して掛金納付月数の通算手続きを行った場合を除く)した共済契約者に限ります。

※3平成23年1月以降に加入(平成23年1月以降に請求事由が発生して掛金納付月数の通算手続きを行った場合も含む)した共済契約者に限ります。

※4法人成りした法人が小規模企業者でない場合は、準共済金となります。

独立行政法人 中小企業基盤整備機構HP

(4)掛け金は選択できる

掛け金は月額1千円から7万円まで選択することができます。

掛け金を変更したい場合、H27年度の改正前は新規申込時と増額申込時には現金納付が必要だったのですが、不要となりました。また、掛金の減額申込みの際に必要だった「委託機関による減額理由の確認」が不要となり、事業や社長の状況によって掛け金を変更しやすくなっています。

(5)契約者貸付制度により、借入をすることができる

掛金の範囲内で借入をすることができます。一般貸付ですと、利率1.5%と非常に安くなっています。

2.小規模企業共済のデメリット

(1)元本割れのリスクがある

加入者の都合で任意に解約した場合、掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満のときは、共済金が掛金合計額を下回ります。

すなわち、払った分よりも少ない金額しか返ってこないことになります。

節税効果を考えると必ずしもトータルキャッシュフローで損をするわけではないですが、”節税効果<元本割れ額”となると損をすることになります。

対策としては、少しずつ掛金を増やしていって途中解約することがないようにコントロールすることです。また、基本的に掛け金分は借入をできるので、一時的にキャッシュが厳しくなったら、解約ではなく借入することも検討します。

(2)共済金が退職所得とならないと節税効果が小さい

共済金を退職所得や公的年金等の雑所得扱いにしてこそ、この制度のメリットを最大限受けることができます。逆に、他の所得になってしまうと、節税効果が小さくなります。

以下の自由に該当しないように注意してください。

事由 税法上の扱い
65歳未満の方が任意解約をする場合 一時所得扱い
65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合 一時所得扱い
12ヶ月以上の掛金の未払いによる解約で解約手当金を受け取る場合 一時所得扱い

(3)キャッシュアウトが先行する

期間や脱退時の事由によりますが、基本的にはトータルでキャッシュフローがプラスになります。

一方、キャッシュアウトが先行するため、無理な掛金の設定はおすすめしません。

(4)掛け金を減額すると、減額分については運用効果がない

掛け金を減額すると、減額分について運用効果を受け取ることができません。

仮に、最初に月額5万円の掛金を支払っていて、その後3万円に減額した場合は、今まで支払ってきた2万円分については減額時点から運用されないことになります。

その後何年加入し続けようが、2万円分については減額時点から増えることはありません。

 

(5)12ヶ月未満の脱退は掛金が戻ってこない

12ヶ月未満の脱退は掛金が一切戻ってきません。少額からスタートするようにしましょう。

3.実際の節税・キャッシュフロー効果はいくらなのか

課税所得500万円(=個人事業主の場合は年間の利益が700万円程度、法人の役員の場合は役員報酬800万円程度)の場合で、節税やトータルのキャッシュフローのシミュレーションをしてみます。

①毎年の節税額

こちらは、毎年の掛金×税率(簡便的に所得税20%+住民税10%=30%)×年数で計算しています。

小規模企業共済のシミュレーション

②共済金による利益額(将来の共済金-掛け金の累計額)

正確な数字ではありませんが、1.(3)※1の共済金Aの返戻率をベースに計算しています。”加入年数×年の掛け金×(返戻率ー1)”です。

小規模企業共済制度 シミュレーション

③退職時の所得税

一括受け取りで退職所得となることを前提に計算しています(勤続年数=加入年数と仮定します)。”((加入年数×年の掛け金×返戻率ー控除額)×1/2+500万円)×適用税率-500万円のみの時の税額”です。

なお、所得のトータル金額で税率が決まりますので、他に退職所得などがあれば、もっと税額が上がる可能性(最大で55%)はあります。

小規模企業共済のシミュレーション

④合計額(①+②ー③で計算)

トータルのキャッシュフローです。掛け金84万円/年で30年加入すれば、なんと約1,300万円近くプラスになります。

他の課税所得でシミュレーションする場合ですが、②の金額は課税所得がいくらであっても変わりません。一方、①、③は課税金額がいくらであるかによって変動します。

小規模企業共済のシミュレーション

4.小規模企業共済にはいつ加入すべきか

小規模企業共済は、個人事業主や小規模や法人の役員のため制度です。加入者の要件は以下のとおり定められています。

  1. 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社の役員
  2. 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社の役員
  3. 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員や常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
  4. 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
  5. 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
  6. 上記1、2に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

要件を満たしている時に一度加入しておけば、その後事業が大きくなっても継続は可能ですが、事業規模が加入要件を超えてしまうと加入することはできなくなってしまいます。

よって、月額千円でもよいので、まずは加入することをオススメします。

5.小規模企業共済の加入方法など

(1)小規模企業共済に加入したい場合の手続

加入申込み手続は、最寄りの商工会、商工会議所又は金融機関等で行っています。

詳しくは、 中小企業基盤整備機構:小規模企業共済に加入したい。をご覧下さい。

(2)小規模企業共済の掛け金の納付方法

毎回、預金口座振替での払込みとなります。「月払い」「半年払い」「年払い」から選択することができます。

(3)共済金の受取り方法

一括、分割(10年、15年)、一括と分割の併用という3種類から選択することができます。

まとめ

小規模共済は掛け金は所得控除、共済金の受け取りは退職金や公的年金と同様の扱いなので、キャッシュフロー的に非常に有利な制度です。

まず最初に加入を検討すべき制度と言えます。また、資金繰りが苦しくなったときには掛金の範囲内で借入をすることもできます。

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