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全体の流れから理解できる!給与所得控除と特定支出控除

給与所得控除とは、役員や従業員の所得税や住民税を計算するときに、会社でいう経費と同じように給与収入から差し引かれる金額です。

サラリーマンの方の所得税や住民税を計算するにあたっては、何段階かの計算過程があり、正確に理解するのは難しいものです。

今回は、給与計算の全体像と給与所得控除と特定支出控除というものについて解説します。

1.給与計算の全体像

給与の計算のステップは以下のとおりです。順に説明します。

給与所得控除

①総支給額を計算する

まずは、基本給や残業代、通勤費を含めた役員や従業員に支払うことになる支給額を全て計算します。

②非課税収入を差し引く

次に、総支給額から所得税や住民税の課税の対象とならない金額を控除します。課税の対象とならない主な項目は以下のとおりです。

  • 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
    →非課税となる限度額は、通勤手当や通勤定期券などの金額のうち、1ヶ月10万円までです。新幹線も含まれますが、グリーン車の料金は除かれます。マイカー通勤の場合は、No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当に定められた金額が限度額として定められています。
  • 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
    →従業者が出張に行く際、通常の範囲内でかかった費用について非課税と定められています。詳しくは、出張旅費規程を作成して出張手当で節税する方法をご覧下さい。
  • 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの
  • 業務で必要なものの現物支給
    制服や食事などのうち、職務上必要とみなされたもの。ただし、現物で支給する必要があり食事手当として現金を渡す場合は課税対象となります。食事については、半分以上従業員が負担していることや1ヶ月あたりの金額基準があります(No.2594 食事を支給したときを参照して下さい)。
  • 低い利子で貸付けたときの利子
    →貯蓄を奨励する目的などで、非課税になるものがあります。No.2606 金銭を低い利息で貸し付けたときを参照して下さい

③給与所得控除を差し引く

この段階で、給与所得控除を差し引くことになります。

所得の計算の基本は、”収入ー経費”で算出されます。しかし、サラリーマン1人1人の経費の部分を全て計算していると、会社も税務署もチェックするのに大変な手間になってしまうため、サラリーマンの経費については、”このぐらいの収入の人は、大体このぐらいの経費がかかるはずだ”という収入ごとの経費の金額が決められています。これを給与所得控除といいます。

個人事業主にとっての経費は、サラリーマンにとっての給与所得控除ということになります。

所得の種類と計算の仕方
給与所得 給与等の収入 給与所得控除
事業所得 事業の収入 事業の経費

金額の算出の仕方は、2.で詳細に解説します。

④-1 他の所得も合算する

ここでは、他の所得があった場合に全て合計します。例えばアパートを所有していて収入がある場合の、”収入ー経費”で計算された不動産所得などです。

このようなやり方は、総合課税と呼ばれています。給与所得・事業所得・不動産所得などは、合算したうえで、累進税率をかけ算して税金を計算します。

一方、株式の配当金・投資信託の分配金などは、他の所得と分離して一定の税率を掛けて計算されますが、確定申告により総合課税とすることもできます。

④-2 保険料・医療費・配偶者控除などを差し引く

③で求めた金額から所得控除を減額します。この所得控除の多さが、所得税の計算を複雑にしています。

所得控除は、会社で実施する年末調整で行うものと、自身で確定申告する必要があるものに大別されます。

年末調整で処理される所得控除は、保険料の証明書を提出したり、扶養親族の名前や生年月日を記入したりと複雑なものではありません。一方で、雑損控除・医療費控除・寄附金控除は、手続きがやや煩雑ですし、病気が会社に知れてしまう恐れなどがあります。そこで、会社の事務作業の軽減と、個人の情報を保護する観点から、雑損控除・医療費控除・寄附金控除は、自身で確定申告することになっています。

a)年末調整で実施

これは、基本的に会社に証明書もしくは情報を提出すれば会社で処理してくれます。

  • 社会保険料控除
    →支払った社会保険料金額に応じた金額が控除されます。
  • 生命保険料控除、地震保険料控除
    →支払った生命保険料、地震保険料に準じた金額が控除されます。
  • 配偶者特別控除、配偶者控除、基礎控除、障害者等の控除
    →養っている家族の状況などが考慮された金額が控除されます。扶養する家族が多ければ多いほど、控除金額は大きくなります

b)確定申告で実施
自身で確定申告することによって、はじめて控除されるものです。

  • 医療費控除
    →10万円以上(所得が200万円未満は所得の5%以上)の医療費の支出があった場合に控除されます。詳しくは、医療費控除の控除対象と確定申告-インプラントやコンタクトレンズは該当するのか?をご覧下さい。
  • 雑損控除
    →現金や家・家財といった生活に必要な動産が災害・盗難・横領などで被害に遭ったときに受けられる控除です。雑損控除は「繰越控除」が可能です。つまり、火事などで大きな損害を出して、その年では所得から差し引きしきれないものは翌年以降3年間は、その損失を持ち越して所得控除できます。
  • 寄付金控除
    →私も利用していますが、ふるさと納税はこれに該当します。確定申告書には、市町村から送られてくる支払証明書を添付します。

⑤累進税率をかけ算する

④で課税所得金額が確定したら、金額に応じて税率をかけ算します。税率は以下のとおりです。

所得税の速算表
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

なお最後に、住宅所得控除があればそれを控除→控除後の金額に復興特別税率を加算するために102.1%を乗じる→100円未満を切り捨て、で確定税額となります。

2.給与所得控除の計算方法

(1)給与所得控除の具体的な金額

給与所得控除は、1.②で算出した給与・賞与収入金額(いわゆる年収。税法上に年収の定義はありませんが、一般に年収と呼ぶ場合は、この給与・賞与収入金額を指すことが多いです)に応じて自動的に金額が決まります。
給与・賞与収入金額が増加したとしても、経費はあまり増えないであろうという前提のため、給与所得控除額は増加は緩やかになります。

①平成28年度の給与所得控除額

給与・賞与収入金額 給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額×40%
650,000円に満たない場合には650,000円
1,800,000円超 3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超 6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超 10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 12,000,000円以下 収入金額×5%+1,700,000円
12,000,000円超 2,300,000円(上限)

仮に、給与・賞与収入金額が700万円だとすると、上から4番目の算式で計算することになりますので、700万円×10%+120万円=190万円となります。

なお、平成29年度から、給与所得金額は小さくなり増税となります。

②平成29年度の給与所得控除額

給与・賞与収入金額 給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額×40%
650,000円に満たない場合には650,000円
1,800,000円超 3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超 6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超 10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)

(2)特定支出控除とは?

給与所得控除には特例があります。特定支出と呼ばれるものが一定額以上ある場合には、さらに控除することができます。これを特定支出控除といいます。

これは、一律で給与所得控除が決めてしまうと、控除できる金額と実際に給与を得るために支出した金額の差額が大きすぎる者に対しては、一律金額以上に控除を認めるというものです。

①特定支出控除の金額の条件

その年中の給与所得控除額×1/2を超える部分はさらに控除できます。

②特定出の範囲

  1. 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出
    →これは、自費で支払っている場合に限ります。例えば通勤手当は一定額までしか認められていないという会社規定があって、超えた分は自分で負担しているときなどが該当します。
  2. 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)
    →これも、自費で支払っている場合に限ります。
  3. 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)
    →これも、自費で支払っている場合に限ります。
  4. 職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)
    →弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。自費で支払っている場合に限ります。
  5. 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)
    →これも、自費で支払っている場合に限ります。年数回単身赴任先から自宅に帰り、かつ、会社が全て負担してくないなどの場合は、金額が大きくなる可能性があります。
  6. 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)
    (1) 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
    (2) 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)
    (3) 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)

これらは、支払者が証明したものに限られます。つまり、基本的には領収書等をきちんと保管しておく必要があります。

また、この特定支出控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。会社からの証明書も入手しなければなりません。

ハードルがかなり高いため、この制度を利用している人はほとんどいません。

3.まとめ

給与所得計算は総支給額から税額を計算するまでかなり複雑です。

「結局税金はいくらなの?」まで計算するのが難しいのですが、この記事を参考に計算してみてください。

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