9.282016
スタートアップ・ベンチャーが考えたいビジネスモデルと資金調達方法の関係
いつ、いくらの資金が必要になるのかは会社の置かれた状況や事業の内容、ビジネスモデルによって大きく異なってきますし、それにより調達の手段も変わってきます。
例えば、最初は大きくキャッシュフローがマイナスになるが、サービスがブレークすれば大きくキャッシュフローがプラスになるビジネスモデルもありますし、最初にそれほど資金は必要ないが、その後の大きな伸びも期待できないビジネスモデルもあります。
この回ではキャッシュフローも発生の期待値からビジネスモデルを大きく3つに分けて、それぞれに最適な資金調達方法は何かを考えていきます。
Contents
1.3つのビジネスモデルの特徴とキャッシュフロー
(1)クリティスカルマス型
クリティスカルマスという言葉は、元々は米国の社会学者であるエベレット・ロジャーズによって提唱されました。ロジャーズは新しいサービス等が浸透する過程でどのような価値観をもった人に受け入れられていくかを、広がる時期によって顧客を5つの層に分類しました。最初はイノベーター層やアーリーアダプター層が少しずつ増えていくだけ(ロジャーズによると2つの層で15%程度)で、そこから徐々にマジョリティー層(アーリーマジョリティ層34%、レートマジョリティ層34%、ラガード層16%)に広がった時に、サービスの普及率が一気に増えます。一般には、マジョリティー層に広がっていき急激に市場が拡大する分岐点のことをクリティスカルマスと呼びますが、ここでは、深いJカーブ(※)を持つビジネスモデルを指すことにします。
会社のキャッシュフローの観点からは、商品・サービス等の開発期間やイノベーター層やアーリーアダプター層が徐々に増える時期はほとんど収入がないので、キャッシュフローは大きくマイナスになります。マジョリティー層に広がった時に一気に収入が上がり、キャッシュフローは大きくプラスになるという特徴があります。
イメージとしては、AirB&B,Uber等です。最初は、莫大な開発資金等がかかる一方で、アプリを使った宿泊やタクシー予約は、一般に理解されるまでに時間を要しました。
※アルファベットのJに似た形をしていることから、「Jカーブ」型のビジネスモデルと呼ばれています。
(2)ストック型
顧客と契約を結び、サービス等を継続して利用してもらい、その利用に対する対価が継続的に入ってくるビジネスモデルです。電気、ガス料金、プロバイダー、携帯電話、SaaSで月額料金をとるもの等などがこれにあたります。クリティカルマス型、かつ、ストック型もありえますが、比較的浅いJカーブを持つビジネスモデルは、ストック型ということとします。
イメージとしては、ソフトバンクの携帯事業、Wantedly等です。
Wantedlyに関しては、サービスが急激に広がりましたので、おそらくそれほど大きな資金調達をせずに早めにキャッシュフローがプラスになったと思います。加えて、今のサービス(企業向け人材採用プラットフォーム)だけだと今後の大きなキャッシュフローの伸びは難しいような気もします。
(3)フロー型
フロー型ビジネスとは、その都度、商品を販売・サービス提供をして、仕事を請け負うビジネスモデルです。飲食店、美容室、WEB制作会社、我々のような士業の単発の契約などです。
売上はある程度は予測はできますが、増減がある程度あるビジネスモデルです。従業員の時間の切り売りによって収益が入るのも特徴です。
売上は従業員数に比例して大きくなっていきますので、売上を急激に伸ばすのは難しいです。一方で、設備投資がいらない業種であれば、初月から黒字かも可能です。
2.3つのビジネスモデルの資金調達
資金調達は、①キャッシュフロー黒字化までの必要資金の大きさ、②事業の成長性(=投資家側のリスク許容度)、の2つの観点から検討する必要があります。
(1)クリティスカルマス型
①出資が向いている
まず、出資か借入かでいうと出資になります。確実に回収することが求められる借入は、大きなキャッシュフローのマイナスが見込まれる状態の会社には行うことができません。クリティカルマスが2年後に来ると予想したとしても実際には遅れるものですから、返済の必要がない資金調達である出資が適しています。
②ベンチャーキャピタルからの資金調達がマッチ
また、クリティスカルマス型は、ベンチャーキャピタルからの資金調達がマッチします。会社は初期に大きな資金調達が必要で、ベンチャーキャピタルも事業が大きくなり将来キャピタルゲインを得ることが期待できるような会社には投資を行っています。
③調達は一気にやってしまった方が良い場合が多い
調達のタイミングとしては、バリュエーションは一般にはクリティカルマスが来るまでは上がりにくいため、創業初期に一気に集めてしまうのが良い場合が多いです。
例えば、創業2年目でキャッシュフローが大きく赤字であるタイミングでは、創業時と比較しても当時は想定していなかったようなリスクが顕在化してきて創業初期よりむしろバリュエーションを落としてしまうこともあり得ますし、リスクがあまりに大きいと判断された場合は投資家が引いてしまう可能性すらあります。創業時に、良い経営陣を集め良い事業アイディアがあれば、その期待感で高いバリュエーションをつけることも場合よっては可能ですので、そのタイミングで一気に集めてしまうのが良いと思います。
ただし、創業時に一気に集めると創業者の出資比率が大きく下がりますので、そこは割り切ってやる必要があります。
(2)ストック型
①ストック型は出資か借入かはケースバイケース
ストック型の場合、自己資金だけで早めに黒字化ができる、もしくは、借入返済能力があることをきちんと示すことができれば、借入も検討することになります。一方で最初はキャッシュフローがマイナスになる、将来の事業の成長を示すことができる、目先の黒字化は早めにできるかもしれないが必要な資金を投入して一気に成長したい場合等は、出資を検討することになります。
繰り返しになりますが、出資での資金調達に関しては、投資家にリターンを与えうるだけの事業の成長性がセットになりますので、資金需要とともに事業の成長性についても検討する必要があります。
②調達は段階的にやるのが良い場合が多い
売り上げが順調もしくは徐々にでも着実に伸ばして行ける見込みがあれぼ、売り上げの伸びに応じてバリュエーションを高くすることができるため、調達を分けて行う方が有利です。
バリュエーションが高いと有利というのはどういうことかたというと、例えば、5億円のバリュエーションの会社が1億円調達しようとすると新たに20パーセント分(1億円÷5億円)の株式を発行する必要があり創業メンバーのメンバーの出資比率がそれに応じて下がることになります。この時に10億円のバリュエーションがつけば10パーセント分(1億円÷10億円)の発行ですみますので、それだけ創業メンバーの出資比率を維持することができます。(バリュエーションと資金調達の関係については別の記事で詳細に紹介します)
(3)フロー型
①フロー型は借入が向いている
飲食店等で上場している会社もあるわけですので、フロー型=成長を期待できない、出資を受けれないということではありませんが、一般には大きな成長性は期待できませんので、ベンチャーキャピタル等から出資を受けることは難しいです。
一方で、フロー型は大きな投資が相対的に不要であり、黒字化を相対的に早く達成することができます(黒字化が簡単と言っているわけではなく、相対的にということです)ので、相対的に初期からキャッシュを確実に生み返済能力は高いわけですので、借り入れに向いています。
3.まとめ
「うちはこのビジネスモデルだからこの資金調達方法が向いている」というのは全く同じビジネスモデルが存在しない以上有り得ないわけですが、短中長期のキャッシュフローの期待値を考えて資金調達の戦略は考える必要がありますので、ご参考にしていただけますと幸いです。
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