11.172016
株式報酬型ストックオプション(権利行使価格1円)の税務と会計処理

株式報酬型ストックオプションは、権利行使価格を1円などの極めて低い価格に設定し、権利行使することで株式自体が報酬となるとともに、株価の上昇が更なる報酬となる制度です。
発行会社・付与対象者のメリット、発行会社の会計処理、個人の税務について解説していきます。
Contents
1.株式報酬型ストックオプション導入のメリット
(1)年功的な役員退職慰労金の代替となる
従来の役員退職慰労金は年功的な要素が強い、つまり役員在籍時の業績に関係なく在籍年数によって積み上がっていくという問題点があり、株主から制度の維持を反対されるケースが多く、一昔前に比べると上場企業ではかなり減っています。
株式報酬型ストックオプションであれば、行使条件の設定次第で一定の業績を上げなければ行使できないこととできますので、株主としても納得のいく報酬と言えます。
(2)税率が低く抑えれる
退職所得の要件を満たせばですが、役員等の付与対象者の所得税が低く抑えられます。
(3)株価が付与時から低下したとしても報酬として価値がある
株価は常に変動するもので、例え行使条件をクリアしたとしても、最初に、付与時の時価=行使価額として設計してしまうと、その後株価が落ちればオプションとしての価値は0になります。
一方で、行使価額を1円に設定しておけば、一定の成果を出せば(=行使条件をクリアすれば)、例え株価が落ちていても1円で買えるわけですから付与対象者にとっては利益となります。
2.株式報酬型ストックオプションの発行会社の会計処理
株式報酬型ストックオプションは、付与時の時価=行使価額として設計するストックオプションと比較して、公正な評価額が大きくなり会社の費用負担が大きくなるため留意が必要です。
(1)ストックオプション付与時点の会計処理
ストックオプションの付与を行った。付与時点の株価は50,000,行使価格は1、対象勤務期間は2年であった。なお、公正な評価額は120,000(公正な評価単価60,000×付与2個)であった。
借方 | 貸方 | ||
株式報酬費用 | 60,000 | 新株予約権 | 60,000 |
※公正な評価額120,000÷2年=60,000。翌年も同じ仕訳を計上します。
(2)権利行使時の仕訳
付与対象者が、(1)の対象勤務期間後にストックオプションの1個分の行使を行った。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 1 | 資本金 | 30,001 |
新株予約権 | 60,000 | 資本準備金 | 30,000 |
(3)権利行使者の売却時の仕訳
借方 | 貸方 | ||
仕訳なし |
(4)権利失効時
対象勤務期間後に1個の付与者が行使を待たずに退職した。
借方 | 貸方 | ||
新株予約権 | 60,000 | 新株予約権戻入益 | 60,000 |
計上した新株予約権の権利が失効した場合は、「新株予約権」勘定から「新株予約権戻入益」(特別利益)勘定に振り替えます。
3.株式報酬型ストックオプションの付与対象者個人の税務
時期 | 課税対象額 | 所得の種類 |
①ストックオプションの権利付与時 | 課税なし | – |
②ストックオプションの権利行使時 | 行使時の株価-行使価格 | 給与所得等 |
③株式売却時 | 売却額-行使時の株価 | 譲渡所得 |
株式報酬型ストックオプションは、①では税金は発生しませんが、②、③の権利行使時点と売却時点の2段階で発生します。
また、②の所得の種類は給与所得、退職所得または雑所得となり、金額の大きさに応じて税率が上がって行きます。同じ年内で権利行使と売却を行わないとすると、権利行使にかかる税金が先行して発生しますので、その原資を別途用意する必要があります。
なお①で課税されない根拠として、税法上は、行使価格が1円であったとしても、発行会社から個人に付与された譲渡制限のある新株予約権である限りは、付与時に課税は生じないこととされています。
「権利行使価格が1円である新株予約権(ストックオプション)を 付与された場合の税務上の取扱いについて」をご参照ください。
4.退職所得になるかの判定と所得金額
役員退職慰労金の代わりに活用する場合など、役員等の退職に基因して権利が与えられたと認められる場合は退職所得となります。
ただし、退職後長期間経過後に行使した場合における株式の値上がり等、主として職務執行に関連しないと認められる場合は雑所得となるため注意が必要です。
「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について」をご参照ください。
(1)退職所得となる場合の所得の計算
退職所得は以下の通りとなり、給与所得や雑所得と比べてかなり有利です。
①退職所得の計算式
退職所得の金額=(収入金額(源泉徴収される前の金額)- “退職所得控除額”) × 1 / 2
②”退職所得控除額”の計算表
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
(2)雑所得となる場合の所得の計算
特別な控除額や退職所得のような1/2となる定めはありませんう。
(3)所得税の税率表
退職所得、雑所得の計算後の税率は以下のとおりになります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
3.まとめ
今回は、株式報酬型ストックオプション(権利行使価格1円)の税務と会計処理を紹介しました。
うまく活用すれば、発行会社、付与対象者の個人の税務上のメリットがあります。
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