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無償減資の目的・手続と外形標準額資本割・住民税均等割への影響

無償減資とは、株主にキャッシュアウトしない資本金の額を減少をいいます。
無償減資の目的・手続と、会社法や税額(外形標準額資本割・住民税均等割)への影響を解説します。

1.無償減資とは?

減資とは、資本金の額を減少することをいいます。株主にキャッシュアウトする有償減資と、株主にキャッシュアウトしない無償減資があります。有償減資を行うことは限定的なため、以下は無償減資を前提として説明します。

無償減資は、資本金の額を減少するという計数の問題でしかありません。つまり、貸借対照表上の科目間の数字を組み替えるだけで、会社財産に動きはありません。

なお、資本金の額の減少額は、資本金の額の減少の効力発生日における資本金の額を超えてはならないとされていますので、資本金の額がマイナスとなる減資はできません。

2.無償減資を行う目的

では、計数の問題でしかない無償減資を行う目的は何でしょうか?

会社法や税法において、資本金の額は会社の規模を示すものとしてその大きさに応じて、機関設計上の強化を求めたり、課税額を増やす規程が定められています。一方、会社法や税法の特例として、資本が大きくても利益が出ておらず損失が積み上がっている会社に対しては減資の手続き行うことにより、このような規定から免除されることになっています。具体的には以下のとおりです。

(1)資本金を減らすことにより納税額を減らすため

無償減資により、「資本金の額」「資本金等の額」を減らすと、節税ができる場合があります。特に事業税の外形標準の資本割は、資本金等の金額に応じて大きくなり、資本金等の金額が大きな会社は相当な負担になっていますので影響は大きいです。この資本割は今後さらなる増税が予定されています。

(2)資本金5億円以上となった時に会計監査人の設置を避けるため

バイオベンチャーなどで増資を重ねていくと、売上がほとんどなく上場などのExitもしばらく先という状態にも関わらず、資本金が5億円以上となる場合があります。前事業年度の末の資本金が5億円以上になると、会社法で会計監査人の設置が義務付けられます。期中の増資で資本金が5億円以上となり、事業年度末まで減資手続きが完了しないと、その翌年には会計監査人設置会社となりますので注意が必要です。

会計監査人設置会社は、監査法人や公認会計士と監査契約を結び、会計監査を受ける義務が生じます。監査報酬は少なくとも年額数百万円はします。ベンチャー企業にとっては会計監査に対応する管理部門の負担も監査報酬の負担も非常に大きいです。上場などの明確な目的がある場合以外は避けたいところです。

(3)事業再生のため

事業再生を行う会社で減資が行われる場合があります。減資をするメリットは、再生後に利益が出たあとに配当をしやすくする(多額の欠損があるままだと、減資した場合に比べて配当可能な状況まで持っていくのに時間がかかります)、増資やデットエクイティスワップなどと組み合わせることにより、貸借対照表の改善を行える、などがあります。

3.「資本金」「資本準備金」「資本金の額」「資本金等の額」

(1)「資本金」「資本準備金」「資本金の額」「資本金等の額」の意味

「資本金」「資本準備金」は会計上の科目です。資本金は、会社に対して株主が払い込んだ金額を意味します。また、増資の際には、全体の金額の1/2を超えない額を資本金ではなく資本準備金として積み立てておくことができます。資本金は少ない方が税務上有利となるため、通常は限度額である1/2を資本準備金とします。

このような考えに基づくと、減資などを行っていない場合、資本金=設立時の払込額+増資額×1/2、資本準備金=増資額×1/2、となります。この2つは、決算書の貸借対照表をご覧いただくと確認できます。

「資本金の額」「資本金等の額」は決算書には出てこない税務の用語になります。税務上の調整が発生するような取引がなければ、「資本金の額」=資本金、「資本金等の額」=資本金+資本準備金となります。減資や合併等があり税務上の調整が発生すると一致しなくなります。申告書の別表5(一)をご覧になれば確認できます。

「資本金」が5億以上かどうかで会計監査人の設置義務が決まり、「資本金の額」「資本金等の額」が減ると税金が安くなる場合があります。

(2)「資本金の額」「資本金等の額」が減少する減資は”欠損てん補”によるもの

会計監査人の設置の基準となる「資本金」は、会社法の減資の手続を正しく行うことにより減少させることができます。

一方、「資本金の額」「資本金等の額」を減少させるには、”欠損てん補”する減資である必要があります。欠損てん補とは、過去の累積損失であるマイナスの繰越利益剰余金に、減資によって発生したその他資本剰余金を充当することです。

限定するのは、資本金が大きく利益も出ている会社が自由に減資ができて、それで節税ができてしまうと、本来の”規模に応じて税金を徴収する”という目的が達成されないためです。

4.無償減資の仕訳

(1)資本金を減少させ、その他資本剰余金を増加させる場合

資本金1,000万円を減額し、同額を「その他資本剰余金」とした。

借方 貸方
資 本 金 1,000 その他資本剰余金 1,000

(2)資本金の減少を欠損補填に充当する場合

資本金1,000万円を減額し、発生した「その他資本剰余金」を欠損填補に充当した。

下段の数値は、”6.欠損填補に充当できる金額”が限度額になります。この欠損填補に充当するとしないと減税の効果はありません。

借方 貸方
資 本 金 1,000 その他資本剰余金 1,000
その他資本剰余金  1,000 繰越利益剰余金 1,000

減資により欠損てん補する場合は、減資(資本金の額の減少)、減資によって発生したその他資本剰余金を欠損てん補に充てるという2段階で行うことになります。

なお、事業税の規定は以下の通りとなっています。

 資本割の課税標準となる資本金等の額は、原則として、法人税法第2条第16号に規定する資本金等の額又は同条第17号の2に規定する連結個別資本金等の額によりますが、以下の場合は必要な調整を行った額となります。(法72条の21、取扱通知4の6の1)

【無償増資】

平成22年4月1日以後、利益準備金又はその他利益剰余金による無償増資を行った場合、その増資額を加算する。

【無償減資等による欠損塡補】

  • 平成18年5月1日以後に、剰余金による損失の塡補を行った場合、損失の塡補に充てた金額を控除する。
    この場合の控除額は、資本金の額又は資本準備金の額を減少し、その他資本剰余金として計上してから一年以内に損失の塡補に充てた金額に限る

5.無償減資の手続

(1)株主総会の特別決議

①減資(資本金の額の減少)、②減資によって発生したその他資本剰余金を欠損てん補に充てる、の2つの決議を同じ株主総会で行うことができますが、その場合は①、②の順で行い、②の決議については、①の決議が成立することを条件として決議することになります。

第1号議案 資本金の額の減少の件

議長は、資本金の額の減少の件につき、下記のとおり行いたいことを説明し、その賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもって原案どおり承認可決された。

1. 減少する資本金の額 金〇〇〇円
2. 効力発生日 平成〇〇年〇〇月〇〇日

第2号議案 剰余金の処分の件

第1号議案における資本金の額の減少により生じる剰余金について、平成〇〇年〇〇月〇〇日現在の欠損のてん補に充てるため、下記のとおり処分したい旨を説明し、その賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもって原案どおり承認可決された。

1. 増加する剰余金の項目  その他利益剰余金
2. 減少する剰余金の項目  その他資本剰余金
3. 処分する各剰余金の項目に係る額 金〇〇〇円
4. 効力発生日 処分の効力は、第1号議案における資本金の額の減少の効力発生日に生じるものとする。

(2)債権者の保護手続き(官報公告、催告)

会社は、減資に関する事項を官報に公告し、かつ知れている債権者に対しては、各別に催告をしなければなりません。債権者が異議申述期間内に異議を述べなかった場合は、当該債権者は資本金の額の減少を承諾したものとみなされます。

(3)減資効力発生日

資本金の額の減少の効力発生時期は、株主総会の決議で定められた効力発生日が原則です。しかし、債権者保護手続は最低1ヶ月が必要なため、その日までに債権者保護手続が終了していない場合は、債権者保護手続が終了したときに効力が生じます

なお、定款の定めにより官報公告が必要な場合、官報に載せたいと依頼して実際に掲載するまでは2-3週間程度はかかりますので、注意してください。決算までに減資したいのであれば、2か月前ぐらいから手続きを開始する必要があります。

(4)変更登記

効力発生日から2週間以内に行います。申請書類は以下が参考になります。

法務省HP:商業・法人登記申請 1-20 株式会社変更登記申請書(資本金の額の減少)

6.欠損填補に充当できる金額

マイナスの繰越利益剰余金は、いつの時点の額を基準とするのでしょうか。これは、確定した決算におけるマイナスの額と考えられます。

したがって、臨時株主総会で欠損てん補を決議する場合は、直近の定時株主総会で承認された貸借対照表上の利益剰余金のマイナスが上限となり、定時株主総会で欠損てん補を決議する場合は、同じ定時株主総会で承認された貸借対照表上の利益剰余金のマイナスが上限になるものと考えられます。

7.外形標準課税の計算への影響

(1)外形標準課税の判定への影響

外形標準課税の対象は、事業年度終了の日現在における資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人です。

欠損てん補する減資で、期中に資本金のを1億円以下とすれば、外形標準課税の対象外となります。

(2)外形標準課税の課税額への影響

外形標準課税の課税額は、「資本金等の額」に以下の税率を乗じます。

平成28年4月1日から
平成29年3月31日までに
開始する事業年度
平成27年4月1日から
平成28年3月31日までに
開始する事業年度
平成27年3月31日
以前に開始する事業年度
税率 0.525% 0.315% 0.21%

8.住民税均等割の計算への影響

都道府県により異なりますが、東京都の場合は、都民税均等割の料率をご覧下さい。資本割に比べれば小さいですが、影響はあります。

9.投資家目線での投資した会社の減資

無償減資は、貸借対照表上の科目間の数字を組み替えるだけで、会社財産に動きはありません。投資家にとっては実質的な影響はありませんので、合理的な判断のできる投資家であれば節税もできるわけですから、反対はしないはずです。

また、資を株式の減損(投資家側の貸借対照表上で、株式を減額して損失を出すこと)と結びつけて考える方もいらっしゃいますが、全く関係ありません。評価手法が、純資産法であれDCF法であれ、投資した会社の無償減資は、投資家側の貸借対照表の資産評価の計算に影響を与えることはありません。

10.減資のデメリットは信用力の低下?

では、無償減資のデメリットはあるのでしょうか?

よく言われるのが資本金の減少による信用力の低下です。本来会社の信用力は資本金の額に影響されないはずですが、上場していない会社ですと開示される情報が少ないため、ホームページなどで公開されている資本金で判断される場合もあります。

工夫としては、株主の名が知られており、かつ、公開可能ならの株主の名前を出す、資本金と資本準備金の合算値で表示してしまう、などがあると思います。前者は、私であれば金額の大きさよりも誰が株主かを重視して会社を見ますので、名の知れた株主であり公開可能であれば出せば良いと思います。後者は、減資により資本金だけを減らすと極端に資本金が小さくなる場合がありますので、表示上、”資本金(資本準備金を含む)”として内訳がわからないようにします。

11.まとめ

無償減資について、解説しました。

特に資本金が1億円が超えていて累積損失が溜まっている会社は、節税の効果が大きいですので、決算に間に合うように減資することをおすすめします。

以上、創業融資・ベンチャー起業・開業を支援する渋谷の税理士・公認会計士の東京スタートアップ会計事務所でした。

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