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上場を目指す企業のためのストックオプションのメリット・デメリット

ストックオプションはベンチャー企業にとっては大きな武器になります。

私もベンチャー企業にいたときはよく「やっぱりストックオプションが目的?すごいことになるんでしょ?」と言われていました(ちなみに株式を持っていたためストックオプションはありませんでした)。一方で、メリットばかりではなく、デメリットもありますので注意が必要です。

ストックオプションは上場企業も使えますが、本記事は非上場企業向けに解説していきます。

1.会社(ストックオプションを付与する側)で最初に注意しておくべきこと

(1)上場を目指さない企業は基本使えない

ストックオプションを使える会社の要件は、①自社の株価が将来大幅に上がる可能性がある(上場基準をクリアするような株価になる可能性がある)、②自社の株式を売却する機会がある、の2つと言って良いです。

①については、成長を目指すベンチャー企業であれば、将来的に株価が大幅に上がる可能性がありますが、”少人数でそこそこの規模でやりたい”という会社は株価が大きく上がることがありませんので条件を満たしません。

②については、いくら株価が上がったとしても売却するチャンスがなければ意味がありませんので、基本的には上場が条件になります。

ストックオプションは、ベンチャーキャピタルなどから出資を受けているような将来上場を目指すベンチャー企業や上場準備会社に与えられた特権と言えると思います。

(2)会社設立当初からの設計が重要

「上場準備に入るから、ストックオプションのことを考えよう!」でも悪くはないのですが、株価がかなり上がった段階でストックオプションを付与しても充分な利益額を得られない可能性があります(多額の資金を得ると退職してしまうため、あえてそうするという考えもあります)。

時価総額50億円で全体の1%分のストックオプションを付与されたとします。全て行使して売却したとすると、50億円×1%=5千万円とかなりの金額になります。しかし、付与時点で既に時価総額が20億円だっととすると、株式を買うための費用が2千万円かかりますので、差額の3千万円しか利益になりません。

これが設立直後に付与していたとしたら、買うための費用は10万円もいかないでしょうから5千万円がほぼ丸々利益になります(ただし、税制適格ストックオプションというものであっても税金は20%ほどかかります)

インセンティブは、大きすぎると退職者を増やしてします、小さすぎると不満がでる、というコントロールが非常に難しいものですので、上場を目指すなら、設立直後からベンチャーの資本政策に詳しい専門家に相談すべきです。

また、ストックオプション発行には株主総会の決議が必要だったり、場合によっては投資家との投資契約で発行が制限されることがありますので、外部株主が入る前にある程度の方針を決めておくほうが良いです。

2.会社(ストックオプションを付与する側)のメリット

(1)会社の成長と役員・従業員の報酬に直結するため、会社成長への貢献が期待できる

ストックオプションの経済的利益は、基本的には付与された時と売却した時の株価の差額で決定します。

入社後の自身の頑張りが会社の成長・業績アップにつながり、それが株価に反映されることになり、自身の報酬アップになるため、自社の成長・業績アップにつながり行動をとるようになります。

(2)キャッシュアウトがない

ベンチャー企業は資金がなく、大企業に比べて従業員の給与が低いのが通常です。

ストックオプションは、キャッシュアウトを伴わず、従業員に大企業以上の報酬を与えることができる可能性があるため、ベンチャー企業にとっては人材採用・人材引き止めにあたっての強力な武器になります。

3.会社(ストックオプションを付与する側)のデメリット

(1)上場時期や上場できるかが不透明になってくるとモチベーションが下がる

会社に入社したときに上場を目指しているという話を聞き、ストックオプションが付与され、それなりに現実味があると思えば、従業員の方のモチベーションは大きくあがるはずです。

しかし、事業が思ったよりも進まないと、だんだん「入社したときは今頃上場準備に入っていたはずなのに、その動きがないな。今の事業や経営陣で本当に上場までたどり着けるのか?自分がいくら努力しても上場は無理かもしれないな」と思い始める人も増えてきます。ストックオプション目当てで入った従業員の方であれば一層そう思うはずで、モチベーションの低下を招いたり、退職者増加の可能性が出てきてしまいます。

(2)上場時に誰に何株分付与されているのかが明らかになる

非上場時は自社でしっかりと管理していれば、各社員の付与株数は一応は漏れることはありませんが(従業員同士て公開していて漏れていたということも多くあります。。)、上場時の投資家向けの書類によって誰に何株付与されているかは一般に公開されます。

付与株数は非公式であれ公式であれいずれはわかることですので、その算定根拠をしっかりと説明できるようにしておく必要があります。

そうしないと、株数が少なかった従業員から不満が出て、モチベーションの低下につながる可能性があります。

(3)大きな利益を得ると、退職する従業員がいる

大きな利益を得てしまうと、上場に至った経験を活かして独立する社員や、リタイヤしてします社員が出てきます。

対策としては、べスティング条項を入れる(徐々に行使ができるようにする)、幹部以外は利益が一定金額程度に抑えるように設計する、などがあります。

4.役員・従業員側の(ストックオプションを付与される側)のメリット

(1)会社の成長が自身の報酬に直結するため、成長に応じた正当な報酬を受けることができる

自身が頑張れば、それが会社の成長に繋がり株価があがり、株価が上がった分だけが報酬になりますので、成果が正当に報酬に反映されることになります。

ただし、ジョインした後の自身の努力ではどうにもならない部分もあります。詳しくは、5.(1)をご覧ください。

(2)付与された時点でキャッシュアウトがないため、損はしない

ほとんどのストックオプションは0円の無償ストックオプションです。株価が上がられなければ行使しないだけですので、損することはありません。

なお、幹部社員については、ストックオプションではなく株式をもってもらうという選択肢もありますが、その場合は会社が倒産すれば、株式の購入資金分は損をすることになります。

5.役員・従業員側の(ストックオプションを付与される側)のデメリット

(1)充分な金銭的利益にならない可能性がある

ストックオプションによる利益金額は、”(売却時点の株価-付与時点の株価)×付与された株式数”となります。これは、”(①売約時点の時価総額-②付与時点の時価総額)×③持分比率”と表すこともできます。

①売約時点の時価総額:会社が売却時点までどのぐらいの価値になるかです。自身の貢献だけでなく、経営者の能力やビジネスモデルに大きく左右されます。さらに、上場すると市況などによって株価は変動しますので、日経平均が低い時期だと自社の株価も低くなりやすいです。

②付与時の時価総額:付与時点でどのくらいの価値だったかです。自身が、どのステージでジョインしたか(どの程度リスクを取ったか、創業初期に貢献したか)に左右されます。低いほど利益が大きくなります。

③持分比率:全体のうちのどのぐらいの比率を付与されているかです。自身が、経営者から他の従業員と比較してどのぐらい評価されているかに左右されます。通常ストックオプションは発行済株式の10%程度を目安(それ以上は上場審査で障害になると言われています)に付与されますので、10%程度に対象者で分け合うことになります。

以上の3つの要素で決まるため、結果として従業員が望むような経済的な利益になるとは限りません。

(2)M&Aで権利がなくなる可能性がある

成長を目指すベンチャー企業にとっての出口戦略は、一昔前までは上場しかありませんでしたが、他の企業からのM&Aも徐々に増えています。

ストックオプションの行使条件が上場であった場合には、M&Aで大企業の100%子会社になった時点で行使できる可能性はほぼ消えてしまいます。上場に向けて一丸となっていたのに、ある日株主の意向によりM&Aが実行されて努力が水の泡、という事態もありえるかもしれません。

従業員の方がそのような知識を持っていることはまずありませんので、付与時点で指摘されることはないと思います。

しかし、今後M&Aにより売却がより増えていくのであれば、M&Aであっても従業員の方にも経済的利益が配分されるように、あらかじめそのようにストックオプションを設計しておくことが望まれます。

6.まとめ

ストックオプションはうまく活用すれば、優秀な人材が活用できますし、成果に応じた充分な経済的利益を与えることができます。ベンチャー企業にとっては、大きな武器になります。

一方で、設計を間違うと、従業員のモチベーション低下と退職者の増加を招く恐れがありますので、注意が必要です。

以下の記事もぜひご覧下さい。

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