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個人事業主との違いから見る法人成り(法人化)の9つのメリットと6つのデメリット

法人成り(法人化)とは、個人で事業を始めて、その後に法人を設立することを言います。事業をスタートする時点から法人設立する場合は、法人成りとは言いません。

法人を持たずに、個人で事業を行っている方を個人事業主と呼んだり、フリーランスと呼んだりします。一般には、個人商店のような事業者の方を個人事業主、デザイナーやIT関連で個人で独立されている方をフリーランスと呼びますが、税金の計算上はどちらも同じです。事業自体は、個人でも法人でもどちらでもスタートできますので、法人・個人事業主のメリット・デメリットを比較衡量して、どちらでスタートするのか、どのタイミングで法人成りするのかを決定する必要があります。

今回は、個人事業主・フリーランスが法人成りする場合のメリット・デメリットについて解説します。

1.法人成り(法人化)の税制上のメリット

(1)法人税と所得税に所得を分散でき、トータルの税額が減る

会社設立の一番のメリットとして、法人化前はすべて所得税の対象だった所得が、法人税と所得税に分散され、控除額が増えたり、適用税率を抑えることにより、税額が減らすことができることを挙げられます。

会社を設立せずに個人事業で行う場合、発生した利益については所得税が課せられます。一方、会社を設立し法人で事業を行う場合、発生した利益について法人税が課せられ、社長に役員報酬を払っていればそれは社長の給与所得にとなり所得税が課せられます。

日本の税制は、事業所得の所得税は累進課税(所得が多いほど税金が高い)で、法人税は課税所得800万円を境に2段階の税率になっています。税率は、所得税が5-45%、法人税が15%と23.9%で、所得税は一定所得を超えると法人税よりも税率が高くなります。なお、これらの国税に加えて地方税がありますが、地方税は基本的には所得に対して一定の税率が課せられます。

個人事業の場合と、法人成りして社長に役員報酬を払う場合の違いを説明します。例として、社長への報酬を差し引く前の利益を1,000万円、法人とした場合の社長の報酬を700万円とします。個人事業の場合は、1,000万円全額が所得税の対象となります。法人化した場合は、社長の報酬も法人の経費として認められますので300万円(1,000万円-700万円)が法人税の対象となり、社長への役員報酬の700万円が所得税の対象となります。この700万円に対しては給与所得控除という特典を受けることができるため、実際には590万円が税金の計算対象となります。

・個人事業の場合の所得

個人事業の場合の所得

・法人の場合の所得

法人の場合の所得

法人設立の場合、給与所得控除が受けれるため社長個人の所得金額が小さくなり、かつ、事業で発生する所得を所得税の対象となる給与所得、法人税の対象となる法人所得に分散することにより、それぞれの税率が下がり、結果として税額が小さくなります。

さらに、ご家族を役員や従業員とする場合は、その人数分だけ給与所得控除を受けることができます。相応の所得金額があるという前提ですが、家族を一つのグループとしてトータルでの納税額を考えると節税効果がさらに大きくなります。

(2)退職金が費用になり、さらに所得税も通常の給与より安くなる

個人事業主・フリーランスの場合、「事業で生じる所得から事業主に退職金を払う」という考えがありません。事業で得た利益は所得税が元々課されていますので、生活費に使おうが老後の資金に使おうが関係ないです。
一方、法人成りをすると、事業主である社長に対する退職金も法人の費用となり、まずは退職金の金額に応じて法人税が安くなります。さらに、支払われた退職金は社長個人の退職所得になるのですが、通常の役員報酬と比較して税金が安くなります。具体的には勤務年数に応じた控除額があり、さらにその控除額を引いた金額に1/2を乗じますので、かなり所得が小さくなります。

事業所得の計算 収益-費用
退職所得の計算 (退職金-控除額)×1/2

(3)生命保険料の一部又は全部が費用になる

個人事業主・フリーランが生命保険料を支払っても、年間最大12万円までの所得控除しか認められません。
一方、法人成りをすると、事業主である社長を被保険者とする生命保険に加入することにより、金額の制限は無くなり、その保険料の一部又は全部が法人の費用となります。

詳しくは、法人と個人の違い|生命保険よる節税をご覧ください。

(4)社宅が費用になる

個人事業主・フリーランは、自宅の家賃を必要経費とすることは、その使用割合に応じた分だけしか認められません。
一方、法人成りをすると、役員の自宅を役員社宅とすることができます。賃貸の場合には、契約を個人から法人に切り替えます。

会社は社宅の家賃を貸主に支払うと同時に、役員から社宅代として例えば全体の50%分を給与から差し引きます。これにより賃料の半分を会社の経費とすることができます。

さらに車なども経費の範囲が広くなる場合があります。詳しくは、役員が払っている自宅の家賃を社宅に変えて節税する方法 、法人と個人事業の固定資産と減価償却費の処理・手続の違いをご覧ください。

(5)消費税の納税義務が2事業年度免除される

消費税は基準期間における売上が1,000万円を超えると、納税義務が発生します。これは個人事業でも同様です。基準期間は、個人事業であればその年の前々年であり、法人であれば、その事業年度の前々事業年度です。

消費税の納税義務は基本的は2年前の売上高を基準とします。既に納税義務者になっている個人事業主であっても、法人化により、一度リセットされます。つまり、2事業年度分だけ納税がを回避することができるのです。

2.税額以外の法人成り(法人化)のメリット

(6)資金調達の幅が広がる

資金調達の方法を大きく分けると、出資と借入(融資)があります。2つのうち、個人事業の場合は借入しか選択肢がありません。会社を設立すると、借入だけではなく、第3者からのその会社への出資による資金調達が可能となります。

事業の急成長のために外部から資金調達を行うベンチャー・スタートアップにとっては、出資により資金調達を行えるという点が重要になります。出資はメリットばかりではありません。

出資と借り入れの違いについて詳しくは、「投資と出資と借入(融資)の違い」をご覧下さい。

(7)個人事業よりも信用力が高まる

今の日本の社会では、まだまだ”個人事業だと怪しいし、信用できない”といった風潮があると思います。

他の会社と取引を開始するときに、そもそも開始時の審査で拒絶されてしまう、もしくは、会社よりも厳しく見られてしまうといったことも個人事業ですとありえます。

ただし、現在では資本金がいくら低くても会社自体は設立できてしまいますので、ご自身が相手を見るときに「この取引先は株式会社だから安心だ」と見てはいけないのでご注意ください。そういう意味では「最低限個人事業であることのマイナスポイントをなくすことができる。信用されるかどうかはその人次第」というのが実態なのだと思います。

(8)決算月を自由に決めることができる

個人事業の場合、会計・税務の決算の締めが12月末と決まっています。

一方、法人は自由に決算月を決めることができます。業務の分散をはかるために繁忙期を避けたり、売上が安定している月を決算月にすることにより節税対策をしやすくするなど、自由度が増します。

(9)事業承継ができる

個人事業の場合、事業の権利も運営も全て個人に帰属・依存するため、事業主になにかあって働くことができなくなれば、形式的にも実質的にも事業の継続は難しいでしょう。

一方、法人は事業自体は法人という疑似的なものに帰属するため、社長に何かあったとしても、別に社長を担える人材がいるのであれば、事業の継続はスムーズにいきます。

ただし、いずれの場合も、事業を実際に指揮できる人がいなければ継続できないのは変わりがありませんし、株式の相続という問題も発生します。

2.デメリット

(1)設立や運営のための費用がかかる

法人は設立するにも、維持するにも、清算するにもコストがかかります。

例えば、株式会社を設立する場合、設立費用に約25万円程度かかりますが、個人事業は届出を1枚から3枚程度出すだけで特に費用はかかりません。

維持コストに関しては、大きく税金関係と登記関係があります。税金関係は、貸借対照表、損益計算書等の決算書、法人税申告書を作成する必要があり、知識がない方が独力で作成するのはなかなか難しく、通常は税理士に依頼する必要があり、安いところでも年間20-30万円程度はかかります。個人事業の方は、法人に比べて税理士の報酬は安くなりますし、独力で申告されている方もいます。

登記に関しても、本店を変更する、役員を変更もしくは重任する、増資をするなどの事象が発生すると、登記をする必要があります。登記の実費として万単位の金額がかかりますし、司法書士に依頼するのであれば、その度に手数料が発生します。

(2)一度設立してスタートを切ると、取り戻せないこともある

例えば、設立時によく知らない人に出資してもらって、会社が成功したあとに、経済的な利益をほとんどその人が持っていってしまったり、創業者が会社から追い出されたりといったこともありえます。事業が大きくなるほど、成功するほど、後戻りはできなくなってしまいます。

成長を目指すベンチャーは早めに法人にした方が良いのですが、場合によっては、個人事業ではじめて、ある程度資金的に余裕が出来てから専門家にきちんとフィーを払い相談したうえで会社設立するというケースもあります。

(3)社会保険の加入義務がある

個人事業の場合、社会保険の適用業種を行っていても、常時使用する従業員が5人未満であれば、強制加入の対象にはなりません。

一方、法人成りをすると、従業員を雇っていなくても、報酬を受けている役員が1人でもいれば、その法人は社会保険の適用事業所に該当します。

社会保険の適用事業所に該当すると、社会保険料の半分は法人負担となりますので、費用負担が増加することになります。

(4)接待交際費が全額費用にならない場合がある

個人事業の場合には、事業に関連して支払う接待交際費は全て必要経費となります。

これに対して法人成りをすると、一定の金額までしか費用として認められず、それを超える部分の金額は費用となりません。

法人の交際費について詳しくは、交際費を正しく理解しましょう!5000円基準、損金となるもの、会議費との違いをご覧ください。

(5)赤字でも納付する税金(均等割)の負担がある

法人の場合、赤字であっても課される税金(住民税の均等割。最低年間7万円)があります。規模が大きくなれば(資本金が1億円以上)、事業税の外形標準課税というものもあり、赤字であっても何千万円、何億円も払っている企業もあります。

(6)税務調査が入る可能性が高まる

法人の場合、個人事業よりも税務調査が入りやすくなります。

一般には法人の方が規模が大きくなりますので、規模が大きくなるから税務調査が入りやすくなります。また、例えば所得が1千万円程度であれば、法人の方が個人よりも税務調査が入られやすいのではないかと思います。

3.まとめ

何かやりたい事業があって独立して会社を設立することもあれば、最近では、本業を持ちながら副業で事業を始めたり、プロジェクトベースで何かを作ったりするケースも増えていると思います。

そういった様々な事業のやり方がある中で、会社設立だけが唯一の答えではありませんので、事業を行う母体として会社がふさわしいのかはきちんと検討する必要があると思います。

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