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著名ベンチャーキャピタルが重視する投資先の指標-財務編

HARD THINGSでお馴染みのベン・ホロウィッツのVCが書いたスタートアップの16指標という記事から、日本の慣習や会計の観点から、財務指標の箇所を翻訳・要約させて頂きます。投資家と話す上では以下のような言葉の違いや定義を意識すべきです。

1.契約高と収益

契約高と収益は違うので区別しなくてはいけません。なお、契約高は正式な契約だけでなく顧客からの発注も含みます。収益は日本でいうと売上であり、これは必要に応じて期間按分する必要があります。

例えば、ユーザーがあるウェブサービスについて1月に半年60万円のプランを申し込んだとすると、その1月のサービス提供会社の収益(売上)は10万円(1ヶ月/6ヶ月)、1月の獲得契約高は60万円ということになります。

月額~円のSaaSのようなサービスは、その月割額で売上を認識できます。(会計基準ではサービス提供が完了していないと売上としては認められませんから、その月のサービスが完了した月末にその月割額を売上として認識します)

→契約高と収益(売上)を混同しないように説明しましょう。

2.Recurring RevenueとTotal Revenue

Recurring Revenueは直訳すると経常的な収益です。会計上の経常利益とは意味が全く違います。

SaaSのようなサービスで月額~円で課金されるものをproduct revenue(ここでいうRecurring Revenue)、コンサルティング等の一過性の収益をServices revenueとし、product revenue+Services revenueをTotal Revenue(トータル収益)と言っています。product revenue(=経常的な収益)+Services revenue=トータル収益です。当然ですが、投資家はproduct revenue(=経常的な収益)を高く評価すると言っています。

以下の重視すべき指標についても解説しています。

ARR (annual recurring revenue) :

年間の経常的な収益。一過性の収益であるServices revenueは除きます。

ARR per customer:

年間の経常的な収益を顧客数で割り算したものです。

MRR (monthly recurring revenue):

月の経常的な収益。収益は(1)で記載のとおり、契約高ではありませんので注意してください。

→経常的な収益(契約が続けば来月以降も入ってくるもの)と一過性の収益(来月以降は再び契約を取りに行かなければ入ってこないようなもの)はきちんと区別して説明しましょう。

3.粗利益

トップラインである契約高の成長はとても重要ですが、投資家はどのぐらい粗利益を出しているのかも知りたがります。粗利益の出し方は会社のよって違いますが、製造、運送、サポート費用まで入れるべきです。

また、何の費用を粗利益で算出するにあたって含めているかを明示すべきです。

→会計上は運送、サポート費用を販管費として粗利益ではなく、営業利益に含む場合も多いです。投資家目線からは、「要はそのプロダクトに係る直接の費用はいくらなのか?」というを知りたいと思っていますので、別途集計が必要な場合もあります

4.Total Contract Value (TCV。合計契約金額) とAnnual Contract Value (ACV。年間契約金額)

TCV(合計契約金額):

特定の期間の契約額であり、product revenue+Services revenueの両方を含みます。

ACV(年間契約金額):

年間の契約額です。サイズ、大規模な取引先に依存しているか、成長しているかをみます。

5.LTV (Life Time Value)

ライフタイムバリューは一度は聞いたことがあるかと思います。一人の顧客から得られる利益の現在価値です。ここで勧めている方法は、限界利益(売上-変動費)に継続期間を乗じて求めるというものです。売上は粗利で計算するのは間違いだと言っています。

LTV:

限界利益×継続期間

→粗利は日本では一般に売上-売上原価で計算されます。変動費と売上原価の違いですが、変動費の方が広いが概念になります。売上原価は商品販売であれば、その商品の仕入代のみが一般的にですが、変動費は商品にかかる販売促進費、営業人員の人件費等、その売上を上げるために直接要する費用を全て含みます。ここで限界利益と主張しているのは、売上に応じて増える費用である変動費と売上の伸びとは連動しない固定費と正確に分けることにより、将来売上伸びていったときにどのぐらいの利益が出そうなのかを予測しやすくなるわけです。

6.Gross Merchandise Value (GMV。流通総額) vs. Revenue(収益)

GMV(流通総額):

マーケットプレス事業では、頻繁に使用されます。流通総額は運営会社の収益ではありません。

→GMVはエンドユーザーへの売上であり、市場の大きさの尺度としては有用と言っています。楽天が手数料を5%とっているとすると、流通総額が100億円、楽天の収益(=売上)が5億円ということになります。

7.前受収益、契約高、請求の違い

前受収益は、契約高を事前に受領した場合に発生しBSの負債に計上されるもので、売上が計上し終わるとなくなるものです。また、売掛金は売上を計上したものの料金の回収が終わっていない場合に発生しBSの資産に計上されます。

現金の動きと売上計上は、前払いや後払いがあるため必ずしも連動するものではなく、その差額についてはBSに一時的に計上され、売上も回収も終わるとBSからなくなります。

なお、契約という行為だけでは財務諸表への影響はありません。契約金を前払いでもらったり、売上計上したりするタイミングで始めて財務財務表に影響します。

以下の例で整理したいと思います。

①Saasのサービスを行っており、1月に半年間で60万円の契約を前払い受注した。

契約高(フロー) 売上(フロー) 前受収益(ストック) 請求(フロー)
1月 60万円 10万円 50万円 60万円
2月 10万円 40万円
3月 10万円 30万円
4月 10万円 20万円
5月 10万円 10万円
6月 10万円

②Saasのサービスを行っており、1月に半年間で60万円の契約を後払い受注した。

契約高(フロー) 売上(フロー) 売掛金(ストック) 請求(フロー)
1月 60万円 10万円 10万円
2月 10万円 20万円
3月 10万円 30万円
4月 10万円 40万円
5月 10万円 50万円
6月 10万円  60万円

8.CAC (Customer Acquisition Cost。顧客獲得費用) … Blended(合計) vs. Paid(ペイド), Organic (オーガニック)vs. Inorganic (非オーガニック)

まずは、前提としては、Paid+Organic=Blendedとして使われているようです。Paidがお金を払って獲得したコスト、Organicが自然増で獲得したコスト、Blendedがその合計です。

内容としては、顧客獲得コストは全ての費用を含まなければならず、紹介料、クレジット料、割引等を含める必要があります。PaidとBlendedは分けて使うべきであり、いくつかの方法別(FacebookかGoogleか)のPaidのCACの指標を持っていれば、どのくらいお金をかければ、どのくらいの顧客が獲得できそうかを投資家も判断できるわけです。また、一般にユーザー数が増加するほどCACは大きくなる傾向にあるため、どの程度あがるのかを予測できるデータを投資家はほしがるとのことです。

9.まとめ

この記事の続きの「著名ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツの重視する指標-プロダクト編」も合わせてご確認ください。

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