4.292017
ライフタイムバリュー(LTV,顧客生涯価値)とは?計算方法とその事例
サブスクリプションモデルなどの1顧客から継続的に課金するビジネスモデルのスタートアップ、ベンチャーが事業計画を作成する際、ライフタイムバリュー(LTV(Life time value)、日本語では顧客生涯価値)の考えを覚えておくと、説得力のあるものを作成できますし、その後の事業に役立ちます。
Contents
1.なぜライフタイムバリューの考えが必要か
ライフタイムバリューの意味と広がり
ライフタイムバリューとは、ダイレクトマーケティングの世界から生まれた言葉です 。それから1990年代頃から、顧客価値の定量的なモデルが発展したことによりさらに注目されるようになりました。
ライフタイムバリューとは、一人の顧客から得られる生涯収益のことです。これは、その顧客に対して直接要する費用が発生する場合にはその費用を差し引いて計算します。
ライフタイムバリューはベンチャーでよく使われる指標の一つ
ライフタイムバリューはベンチャー・スタートアップの事業計画作成や投資交渉をする上でもよく用いられる指標になっています。これは、従来の製造業的な「売上ー原価」で計算される粗利益よりも、1人の顧客からどれだけ収益をあげられるかという観点が、ITサービスを提供する企業の将来性や現状を把握するうえではよりマッチするため、重要な指標となっています。
さらに、実績データを適切に集めることによって(LTVはある程度の実績データがないと、残念ながら意味のある指標とはなりません)、ライフタイムバリューを正確に計算できれば、その製品やサービスについてどのくらい CAC(Customer Acquisition Cost 。顧客獲得コスト。広告費、営業人件費等)を投入できるかなどの計算を行うことができます。
ライフタイムバリューが想定よりも小さい、もしくは、減少傾向になっているのであれば、その構成要素である平均寿命を延ばす、売上単価をあげる、コストを下げるなどの施策が必要になりますし、それでもLTVを適正値以上にすることができないのであれば、次のサービスを検討するなどの大きな戦略の変更が必要なのかもしれません。
2.ライフタイムバリューの計算方法
ライフタイムバリューは前述の通り、一人の顧客から得られる生涯収益のことですが、ビジネスモデルごとの計算例は以下のとおりです。
①楽天、メルカリなどの売買のプラットフォームの場合
→1回当たりの購入額×手数料割合×1顧客の離脱までの平均購入回数
②ネットフリックス、Newspicksなどのサブスクリプション
→月額(年額)の料金×1顧客の離脱までの平均継続期間
③フロントエンド商品とバックエンド商品の二つがある場合
→フロントエンド商品の単価+バックエンド商品の単価×”フロントエンド商品を買った顧客がバックエンド商品を買う割合”
3.ライフタイムバリューの計算要素
ライフタイムバリューの計算の仕方を一般化すると、①顧客からの収益(会計上の売上)、②顧客の維持期間(回数)、③顧客維持に関わるコストの3つの要素によって計算をされることになります。なお③については、サブスクリプション型など、ビジネスモデルよってはほとんどかからない場合もあります。
①顧客から収益の計算方法
楽天やメルカリなどの取引総額に応じて手数料を得るビジネスモデルであれば、”取引額×手数料割合”になります。また、ネットフリックスやNewspicksなどの月額課金型のビジネスモデルについては、”月額料金”になります。
また、フロントエンド商品とバックエンド商品の二つを持っている場合は、それぞれの収益について、②の”顧客の維持期間(回数)”と共に、分けて計算する必要があります。
②顧客の維持期間(回数)
楽天やメルカリなどの取引総額に応じて手数料を得るビジネスモデルであれば、顧客がそのサービスから(完全に)離脱するまでに”取引する平均回数”になります。また、ネットフリックスやNewspicksなどの月額課金型のビジネスモデルについては、そのサービスの課金を”サービス開始からそれをやめるまでの平均維持期間”になります。
ここで、平均維持期間については、解約率(チャーンレート ) からも計算できます。解約率は顧客離脱率を意味しています。サブスクリプション型のビジネスモデルの場合、この解約率は非常に重要な指標になりますので、投資家から必ず聞かれる指標と言っても良いと思います。 解約率を見ることによってそのサービスが顧客の満足を得ているのかを見ることができますし、解約率の把握を起点としてLTV を算出し、顧客獲得コスト(意味は後述)と比較することにより、その事業が継続的なものなのかを測ることができます。
チャーンレートは解約の要因によって細分化できますが、ここではもっとも簡単な算出の仕方である”前月末の顧客数÷当月の解約数”とします。継続期間は、”1÷解約率”で算出することができます。
仮に、前月の顧客数が1,000、解約数50であれば、解約率は50÷1,000で5%ということなります。そして継続期間は1÷5%で20ヶ月ということになります。
③顧客維持に関わるコストの例
ここでは、顧客数に応じて増えるコストを集計します。例えば顧客1,000人に対して1人のカスタマーサポートが必要なサービスであれば、そのカスタマーサポートの1か月あたりの人件費を顧客数である1,000で割り算することにより、1顧客あたりの維持コストを算出することができます 。
4.LTVは、広告宣伝費などの顧客獲得コスト(CAC)と対比させる
顧客獲得コスト(CAC)とは?
ここまでで ライフタイムバリュー(LTV)をどのように算出するかを見ていただきました。では、このライフタイムバリューの数字を経営の意思決定にどう活かすのでしょうか?もっとも活用できる場面が、事業計画上の数値や実績値を使って、ライフタイムバリューと顧客獲得コスト(CAC)との比較によるサービスの経営的な健全性を測るときです。
顧客獲得コストは、”(全ての営業人員の人件費+広告宣伝費などのマーケティング費用)÷新規顧客数”で求めます。つまりは、「一人の顧客を獲得するのにいくらをかけているのか?」ということです。
LTV,顧客獲得コストを使った指標
最も使うのは、2つです。一つは”LTV/顧客獲得コスト”で、一人の顧客を獲得するのに要したコストの、何倍の収益を生み出しているのかを見る指標です。これが1を下回るようであれば、やればやるだけ赤字です。もう一つが、”顧客獲得コスト/月次売上”(これはサブスクリプションビジネスもしくはそれに似た課金方法のビジネスモデルである場合には使えます)で、顧客獲得コストを何ヶ月で回収できるかをみる指標です。
こちらのサイトを参考に2つの指標の具体的な目安を示しますと、LTV/顧客獲得コストが3倍以上、顧客獲得コスト/月次売上が18ヶ月以内です。
サービスリリース前の会社様の事業計画作成をサポートさせて頂くと「事業が始まっていないのに、将来の広告費の算定の仕方なんかわからない」というご意見を頂きます。同業他社の広告費を調べるなどのいくつかの方法がありますが、このLTV/顧客獲得コストが3倍以上、顧客獲得コスト/月次売上が18ヶ月以内となるようにビジネスモデルを構築して事業計画を作成し、そこから目標広告宣伝費を算定するというのも一つの方法です。
また、実際に事業を始めてPDCAを回すときには、この数値になっているのかのチェックや、その数値になるための改善策が必要となります。
フロントエンド商品とバックエンド商品がある場合の顧客獲得コストは?
フロントエンド商品とバックエンド商品がある場合のライフタイムバリューの考え方は以下のとおりです。
フロントエンド商品が1万円、バックエンド商品が10万円(購入回数は両方共に1回のみ)、フロントエンド商品を買った顧客がバックエンド商品を買う割合が30%だとします。ライフタイムバリューは、フロントエンド商品1万円+バックエンド商品10万円×30%で、4万円となります。
この時、顧客獲得コストが広告宣伝費のみ、LTV/顧客獲得コストを3倍以上を目指すとすると、4万円/3=1.3万円未満が、かけることができる広告宣伝費となります。ここでのポイントは、フロントエンド商品のみでかけることができる広告宣伝費考えずに、バックエンド商品の含めて考えることです。
5.まとめ
ライフタイムバリューの考え方は、合理的な事業計画を作成するために役立ちますし、経営上の意思決定にも役立つものです。
ぜひ一度、御社の事業に当てはめて考えてみてください。
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