9.242016
起業時の資金調達で知っておきたい出資と借入のメリット・デメリット
前回の「これだけは知っておきたい!投資と出資と借入(融資)の違い」では、投資、出資、借入の違いや概要を解説しました。今回は出資と借入のメリットデメリットをより詳しくご紹介していきます。
どちらが良いというわけではなく、出資や借入れといった資金調達は事業を成功させるための手段ですので、メリットとデメリットを考えて選択する必要があります。
1.出資のメリット・デメリット
(1)出資のメリット
①返済不要で、創業初期の資金調達手段となる
「これだけは知っておきたい!投資と出資と借入(融資)の違い」にも記載しましたが、出資は返済不要の資金ですので、返済時期や返済額を気にする必要がありません。
出資は、出し手である投資家にとって、借入れと比較すると相対的にハイリスクハイリターンの投資になりますので、売上がまだないような状況でも会社や事業にポテンシャルがあれば出資できる場合があります。
当然、数あるベンチャー企業の中から選ばれて出資を受けるには、競争優位性、技術、事業アイディア、経営陣の強さ等の差別化する要素が必要ありますが、銀行からの融資が不可能な状況での資金調達手段としては有用です。
②投資家からアドバイスを受けることができる
著名なエンジェル投資家やベンチャーキャピタルは、これまで多くの事業の成功や失敗を見てきています。なかには自ら事業を起こして成功させた経験を持っている方もいます。創業期の悩みや問題点はある程度共通するものがありますから、彼らからのアドバイスは大変貴重なものになると思います。
③投資家からのネットワークにアクセスできる
”日本のベンチャー業界は芸能界のようなもので非常に狭い世界”。ある最近上場した会社の社長さんがおっしゃっていましたが、その通りだと思います。私もベンチャーCFOをしていた時、知り合いをたどると知り合いということが非常に多くて、想像していた以上にベンチャー業界は狭いことに驚きました。
有能なエンジェル投資家やベンチャーキャピタルからは、次の資金調達ステージになった時に適切な投資家を紹介してもらえる、幹部人材を紹介してもらえる、顧客を紹介してもらえる、PRをしてもらえる等が期待できます。特に次の資金調達を助けることは最初に出資した投資家の重要な役割の1つだと思います。
投資家回りをするうえでは、まず「真剣に話を聞いてもらう、真剣に検討してもらう」ことが重要ですので、知っている投資家からの紹介であれば真剣に検討してもらえるはずです。ちなみに、彼らは年間100件以上の投資案件を検討していると言われており、全部の案件を真剣に検討する時間はないはずです。
④本気で会社の成功に協力してくれる
最近はよく”起業した人や起業したい人応援します!”と言っている方がいますが、どこまで本気で言っているのか、どこまで本気でその会社に対して応援してくれるかは正直わかりません。それは、その応援した会社が成功したとしても、応援した人には明確なメリットがないため、ある意味仕方のないことだと思います。
一方で、株主として少額でも出資をしておけば、あとで会社が上場やM&Aで株価が大きくなった時にキャピタルゲインを得ることができますので、本気で協力してくれるはずです。
(2)出資のデメリット
①出資比率によっては経営権を握られ、機動的に事業ができなくなる
会社の経営権は特殊な株式を発行していない限りは出資比率で決まります。
仮に投資家の出資比率が過半数を超えた場合、役員を解任されるリスクがあります。従業員の解雇は日本ではなかなか難しいですが、取締役の解任は株主総会の決議さえあればいつでもできてしまいます。
ちなみに投資家の出資比率が過半数を超えたから即アウトというわけではありません。アメリカでは上場までに創業者の出資比率は10-20%程度まで落ちるが一般的です。これは、創業者である社長と投資家とのあいだで「創業者を社長にしておくことで、会社の価値を最も高くすることができる」という暗黙の合意ができいるからです。日本においては、アメリカ以上にベンチャーで社長をできる人材は少なく、代替は容易ではないはずです。会社によってケースバイケースですが、今後日本でも大規模資金調達をするメガベンチャーが出てくれば、過半数超えを許容しても良い場合が増えていくと思います。
また、注意して頂きたいのが、出資比率に関係なく投資契約書上で様々な制約を受けることがあるということです。特定の項目(資金調達や重要な意思決定)は投資家の事前承諾や投資家との事前協議をすることを盛り込まれることが一般的だと思います。この項目が多すぎて苦労している会社は少なからずあります(実際に私もそうでした)ので、過度な制約にならないかは投資契約をよくチェックして、投資家と交渉する必要があります。
②投資家のためにExitの時期を考えて事業を成長させる覚悟が必要である
ここでは、ベンチャーキャピタルから出資を受けることを前提にします。ベンチャーキャピタルは、ファンドを作って、投資家から資金を集め(ベンチャーキャピタル自身もファンド組成のための資金集めをしています)、投資先に投資をしてリターンを得て、そのリターンを投資家に返すということを事業として行っています。ファンドは10年程度の期限があり、ファンドの期限が来ると基本的に全ての投資先の株式を売却してファンドとしての収支を確定させ、回収した資金を収支に応じてファンドの投資家に配分する必要があります。このことは、出資を受ける会社としても期限内にベンチャーキャピタルが株式を売却できる(Exitすると言います)状態にしないといけないことを意味します。
つまり、「ベンチャーキャピタルを出資受けたけど、成長はそこそこでもいいや」というのは、許されないということです。「事業を成長させ、投資家であるベンチャーキャピタルにもきちんと利益を出してもらう」という覚悟がなければ、出資を受けるべきではありません。
③投資家とのコミュニケーションコストがかかる
株主である投資家は出資先の事業の状況をモニタリングする必要がありますので、それに応じて財務報告を中心とする資料を定期で作成する必要があります。
適切なアイドバイスをもらうための、詳細な事業の進捗や現在の財務状況の資料作成になれば会社にとっても良いのですが、単に投資先の社内で必要であるがゆえに詳細な資料を求めてくる場合もあります。そのような資料作成は事業価値の向上にはつながらないはずなのですが、投資家から出資を受けた以上は作成する必要があります。
また、事業方針を大きく変更する場合は、通常はベンチャーキャピタルとの投資契約に必要なプロセスが書かれているはずですので、事前協議や事前の承諾を得る必要がある場合、投資家が多ければ多いほど時間もかかり、機動的な方針変更を難しくすることがあります。
2.借入のメリット・デメリット
(1)メリット
①経営権を握られず出資比率を落とさせずに資金調達できる
借入を行う際は、金銭消費貸借契約を締結をし、その中では資金の返済以外にいくつかの義務(定期の決算の報告等)が記載され、それに対応する必要はあります。
一方で出資のように経営権の一部を譲るわけではありませんので、法律的には経営に介入されることはありません。また当然ですが、出資ではないので創業者の出資比率を落とすことはありません。
②創業融資や制度融資を利用するれば、安定的なキャッシュフローや担保がなくとも資金調達ができる
借入は確実な返済が求められるますので、基本的には何かしらの担保がなければ、借入れによる資金調達を行うことはできません。
ただし、創業融資や制度融資といって、創業者に積極的に資金を提供する制度があります。もちろん審査はきちんと行われますが、創業融資等を利用すれば、担保がなく創業時の不安定な状況でも借入を行うことができます。
(2)デメリット
①確実な回収が求められる
銀行は基本的には「確実に返済してもらえる見込の会社にしか貸さない」という立場です。この点に関して「銀行ももっとリスクを取って貸すべきだ」と言われますが、投資家の期待値の観点から見た場合には致し方ない面があります。
VC等が出資する場合、将来会社が大化けすれば出資した金額の何倍も手に入れる可能性があるため、高リスクの会社複数社に出資することを許容できます。例えば、10社に投資を検討する際に、「9社は潰れるが1社は15倍になるであろう」という期待ができれば、トータルでは5倍のリターンが期待できるため、合理的に考えて出資を行うことができます。
一方で、借り入れに関しては、10社に対して期間1年で100万円を利息5%で融資を検討する際には、1社返済できないと銀行としては赤字(貸付原資が1,000万円、回収が945万円)になってしまいます。利幅が小さい分、1社1社を本当に返済できるかを慎重に審査する必要があります。
②担保や個人保証がないと借入できない場合もある
会社の利益だけで返済が難しいと判断されれば、担保や個人保証が求められてしまいます。これは、もし利益だけで返済できない場合は、会社や社長の資産を代わりに返済に当てるというものです。創業融資等、一部必要のないものもありますが、銀行の貸付のビジネスの構造上担保や個人保証は致し方のないところではあります。
③出資と同様に、投資家(銀行や他の貸主)とのコミュニケーションコストがかかる
出資を受けた時ほどではないですが、定期的な決算報告は求められますので、相応の時間やコストを割く必要があります。
3.まとめ
出資と借入のメリットとデメリットについて、具体的にまとめました。
出資に関しては、現在日本においてもベンチャー投資が活発になっていますが、そもそも何10分の1という競争を勝ち抜き他社よりも光るものがないと出資を受けられません。また、事業の制約が出てきたりコストが出てきたりとメリットばかりでもありません。一方で、出資を受けることができれば、資金のみではなく投資家の様々な支援を受けることによって大きく成長できる可能性も出てきます。
借入に関しては、確実な返済や原則として担保や個人保証が求められます。一方で、飲食店等の創業時から初期投資さえできれば安定してキャッシュが生み出せるような事業については、創業融資等を使って担保差入れや個人保証をせずにうまく資金調達し、過度なリスクを負わずに事業を軌道に乗せることができます。
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