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株式会社の会社設立時の定款作成ガイド

株式会社の設立時には、会社の組織や運営方法などのルールを定めた定款を作成する必要があります。主に会計や税務の観点から定款の必要事項と留意点について解説します。

1.定款の記載事項

定款の記載事項は、以下のとおり3つの種類があります。絶対的記載事項の記載がなければ定款として認めれませんし、必ず記載したほうが良い相対的記載事項がいくつかあります。

(1)絶対的記載事項

定款への記載が必ず必要であり、この記載が欠けると定款自体が無効になってしまうものです。

・会社の事業目的

・商号

・本店の所在地

・設立に際して出資される財産の価額またはその最低額

・発起人の氏名または名称および住所

なお、発行可能株式総数については、会社設立までに定款で定める必要があります。

(2)相対的記載事項

定款に記載がなくとも定款自体は無効にならないが、定款の定めがなければ効力がない事項です。仮に、この相対的記載事項を社内の別の規則に定めていたとしても対外的には無効になってしまうということです。株式の譲渡制限、機関設計(取締役会の設置の有無など)、役員の任期などがこれに該当します。

(3)任意的記載事項

定款に記載するかどうかは任意の事項です。定款に記載した場合は、株主総会で”定款変更の手続”の手続が必要になり、変更は容易にはできません。逆に言うと、簡単には変えたくないようなルールを定款に定めておくという考えもありす。

2.株式会社設立時の定款記載事項と注意点

設立時から最低4人の役員が必要な取締役会設置会社は希だと思いますので、下記は、役員一人でもOKな取締役会非設置会社を前提としています。なお、ベンチャーキャピタルなどから外部から出資を受ける場合は、取締役会の設置を提案されることもありますので、外部投資家も入れて成長を目指す会社は候補者の目処はつけておいたほうが良いと思います。最初に出資したベンチャーキャピタルは必ず役員を派遣します。その後も株主が増えるたびに株主の出資割合や常勤の取締役の人数とのバランスなども考えて増やしていく、もしくは、増やすように株主から要求されることになります。

この場合の監査役に関しては、我々のような会計士や税理士が社外役員として担うこともできます。

(1)第1章 総則 商号

第1条 当会社は株式会社〇〇〇と称する。

商号は会社名のことです。定款の絶対的記載事項になります。最初か最後に”株式会社”とつける必要があります。

有名企業の名前は商標や不正競争防止法で問題になる可能性があるので避けてください。

同一住所同一商号は禁止されていますので注意してくだい。(全く同じ住所でなければ問題ありませんので、例えば同一区同一商号でもかまいません)

・変更する場合は3万円の登録免許税がかかります(司法書士の手数料は別ですが、商号の変更登記は簡単ですので、ご自分でも問題なくできます。)

(2)目的

第2条 当会社は、次の事業を行うことを目的とする。

1.〇〇の販売

2.〇〇のサービスの提供

3.前各号に付帯する一切の業務

・定款の絶対的記載事項になります。

事業目的として決めた以外の事業をしてはならないとされているため、将来行う予定の事業や幅広く捉えれるようにしておくの一般的です。なお、幅広くと言っても、明確性(どんな事業かがわかる必要があります)、営利性(寄付などが目的はダメです)、適法性(拳銃の製造などはダメです)の3つを満たす必要があるとされています。

・会計上はこの事業目的以外のことで収益を上げると、営業外収益と言って、通常の売上とは別区分で表示させる場合があります。

・変更する場合は3万円の登録免許税がかかります。

・もし決めかねる場合は同業他社を参考にするも良いと思います。通常は会社のWEBサイトに載せていないので、法務局からオンラインで取り寄せます。ただし、数百円かかります。「法務局:登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利で」

(3)本店の所在地

第3条 本店を東京都〇〇区におく

・定款の絶対的記載事項になります。

・定款では最小行政区画の記載でかまいません。

・この住所が税務・労務等の届けでの提出先になります。

・本店を移転する場合は3万円(管轄内)もしくは6万円(管轄外)の登録免許税がかかります。

(4)公告方法

第4条 当会社の公告の方法は、官報に掲載する方法とする。

・官報、日刊新聞紙、電子広告の3つの方法があります。設立したばかりの会社は官報が無難だと思います。日刊新聞紙は都度の掲載が高い、電子広告は初期費用が高いためです。

(5)第2章 株式 発行可能株式総数

第5条 当会社の発行可能株式総数は〇〇株とする。

・特に何株が良いというのはありません。増資等の可能性を考えて1万株程度にしておけば、問題ないと思います。なお、比較的初期から大人数に大量にストックオプションを発行する予定がある場合は、細かい単位で発行する必要がでてくる可能性がありますので、もう少し多くしても良いと思います。

(6)株券の不発行

第6条 当会社は、株式に係る株券を発行しない。

・現状発行するメリットはありませんので、不発行にします。

(7)株式の譲渡制限

第7条 当会社の株式を譲渡により取得する場合には、取締役の過半数による決定を受けなければならない。

・会社が知らない間に株主が変わってしまうと、会社の経営が安定せず、会社の存続がままならなくなってしまいます。ライバル会社が株主になってしまえば競争力がなくなるでしょうし、ましてや反社会勢力だった場合はそれが判明した時点で通常の営業は不可能になってしまう可能性がありますし、上場の道はほぼなくなります。このような”会社が知らない間に株主が変わってしまう”ということを防ぐために定款で株式の譲渡につき会社の承諾が必要であることを定めることができます。これを株式の譲渡制限と呼びます。日本の場合はほぼ全ての上場していない会社が譲渡制限としています。

・承認する機関は、定款に別段の定めがなければ、取締役会非設置会社が株主総会の決議、取締役会設置会社が取締役会が原則となります。例のように、定款で別の機関で承認することと定めることが可能です。

(8)株主名簿記載事項の記載又は記録の請求

第8条   会社の株式取得者が株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することを請求するには、株式取得者とその取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人が当会社所定の書式による請求書に署名又は記名押印し、共同して請求しなければならない。

2  前項の規定にかかわらず、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令に定める場合には、株式取得者が単独で株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することを請求することができる。

・株主名簿の記載についての定めです。会社は株主名簿を作成し、①株主の氏名または名称および住所、②保有株式数、③取得日を記載または記録しなければならないとされています。

・法人税法上は、株主構成によって同族会社(同族会社は大部分が個人の株主で構成されいる会社のことで、所得の調整がしやすいことから同族会社は課税される場面が増えます)であるか否かを判定しますので、重要です。

(9)基準日

第9条 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主をもってその事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。

2  前項のほか必要があるときは、取締役の過半数の決定によりあらかじめ公告して臨時に基準日を定めることができる。

・議決権についてどの時点の株主が権利を持つかを明確にします。通常ベンチャーなどではありえませんが、頻繁に株主が異動するとどの時点(決算日なのか、招集日なのか、総会の開催日かなど)の株主が議決権を持つかを明確にしておかないと混乱しますので、基準日を定めます。

(10)第3章  株主総会 招集

第10条 定時株主総会は、毎事業年度の終了後3か月以内に招集し、臨時株主総会は必要がある場合には、いつでも招集することができる。

・法人税の申告書は原則として事業年度の終了後(決算日後)から2ヶ月以内に提出しなければなりません。ただし、理由を付して”申告期限の延長の特例の申請書”を提出すれば3ヶ月以内の提出でOKとなります。この中の理由として、”定款で定時株主総会が事業年度の終了後3か月以内に招集すると定められているため”と記載すれば問題ありません。

(11)招集権者及び議長

第11条 株主総会は、法令に別段の定めがある場合を除くほか、取締役の過半数の決定をもって代表取締役社長が招集する。ただし、代表取締役社長に事故があるときは、あらかじめ取締役の過半数をもって定めた順序により、他の取締役が招集する。

2  株主総会においては、代表取締役が議長となる。ただし、代表取締役社長に事故があるときは、他の取締役が議長となる。

・取締役会非設置会社は基本的に取締役の過半数で意思決定をして、代表取締役が実行します。株主総会の招集についてもこのプロセスで行います。また、代表取締役が議長を行えない場合についても定めておきます。

(12)招集手続

第12条 株主総会を招集するには、株主総会の日の3日前までに、議決権を行使することができる株主に対して招集通知を発するものとする。

2 第1項の規定にかかわらず、株主総会は、その総会において議決権を行使することができる株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。

・株主が少数で身内のみのうちは厳格に招集手続をする必要性は乏しいため、”株主の全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく開催すること”、と定めておき、招集手続省略合意書を残しておけば問題ありません。

(13)株主総会の決議

第13条 株主総会の決議は、法令又は定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

2 会社法第309条第2項に定める決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う。

・会社法第309条第2項に定める決議とは、特別決議のことを指しており、定款変更などがこれに該当します。

(14)株主総会議事録

第14条 株主総会の議事については、法務省令に定めるところにより議事録を作成する。

・議事録については、税務調査・資金調達で困らない役員報酬に関する議事録の残し方 もご参照ください。

(15)第4章 取締役 取締役の員数

第15条 当会社の取締役は、1名以上とする。

(16)選任及び解任の方法

第16条 当会社の取締役の選任及び解任は、株主総会において、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

2    取締役の選任決議については累積投票によらないものとする。

・累積投票とは、1人の候補者に選任される者の員数と同数の投票を集中することを認める制度です。例えば創業者が全部で10のうちの4の議決権を持っていたとします。2人の取締役を選任する場合に、創業者は4×2=8の投票ができます。全部で10×2=20の投票数があるため、創業者が1人の取締役に8を投じると、残りの12では、1人は8を超すことができますが、2人分は8を超すことができません。40%分をもつ創業者は1人(自分)は確実に選任することができるわけです。つまり、累積投票は少数株主にも取締役を選ぶ権利が発生します。一方で、累積投票でない場合には、基本的に過半数をもった株主が全て決めることになり、少数株主の意見は反映されません。

通常は創業者が最大株主の状態がしばらく続きますので、累積投票はおすすめしません。また、あまり採用されいない方法ですので、累積投票にしておくと外部株主は嫌がる可能性があるかもしれません。

・将来的に外部株主が増えて創業者の持ち株比率が下がることが想定される場合は、解任の要件を重くする(=創業者が解任されにくくする)ことも検討したほうが良いと思います。

(17)任期

第17条 取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

2  補欠又は増員により選任した取締役の任期は、その選任時に在任する取締役の任期の満了すべき時までとする。

・取締役の任期は難しい問題です。例えば、のちのち外から取締役となるメンバーにジョインしてもらい、残念ながら想定どおりの活躍をしてもらえなかったとします。従業員と違い、取締役は労働基準法で守られている立場ではないため、株主総会の決議さえしてしまえばいつでも解任(=クビ)できます。しかし、その取締役の残任期の役員報酬については、取締役に重大な過失などがあった場合を除き要求されれば基本は支払わなければならなくなりますので、会社の費用負担は同じです。

・一方で、ベンチャーでエクイティによる資金調達をして外部株主の比率が増えると、創業者が解任されるリスクが生じます。例えば、定款で選任は普通決議、解任は特別決議、任期を2年としておけば、創業者が1/3超の持ち株比率を維持していた場合、少なくとも選任から2年は解任されることはありません(もちろん、創業者が過半数を維持していれば任期に関わらず解任されません)。出資する側もそのことはわかっていて長すぎる任期は好まれませんので、バランスも重要です。般的には2年がバランスとして良いのではないかと思います。

・外部から資金調達をせずに取締役もしばらくは社長一人だけという場合は最長である10年としても問題はないと思います。重任のたびに登記手数料がかかりますので、長めにすれば登記手数料を節約することができます。

(18)代表取締役

第18条 取締役が2名以上ある場合は、取締役の互選により、その中から代表取締役を定める。

2    代表取締役は、当会社の業務を執行する。

(19)業務執行の決定

第19条 当会社の業務は、取締役の過半数をもって決定する。

(20)報酬

第20条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として当会社から受ける財産上の利益については、株主総会の決議によって定める。

報酬については、税務調査・資金調達で困らない役員報酬に関する議事録の残し方 、知らないと損をする役員報酬を決定するための5つのポイント もご参照ください。

(21)第5章 計算 事業年度

第21条 当会社の事業年度は、毎年1月1日から12月31日までの年1期とする。

・決算期を決める規程です。1年を超えることはできません。

(22)剰余金の配当等

第22条 当会社は、株主総会の決議によって、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された株主、登録株式質権者(以下「株主等」という。)に対して剰余金の配当を行う。

2 前項に定める場合のほか、当会社は、基準日を定め、その最終の株主名簿に記載又は記録された株主等に対して、剰余金の配当を行うことができる。

・会社の純資産が300万円未満の場合は配当はできません。また、純資産が300万円以上でも会社法で定められている配当原資がなければ配当できません。基本的には、利益の累積額から一定の項目を控除したものが配当原資になります。

(23)剰余金の配当の除斥期間

第23条 剰余金の配当がその支払提供の日から満3年を経過してもなお受領されないときは、当会社はその支払義務を免れる。

・未払配当金については、配当決議の時から1年を経過した日にその支払いがあったものとみなされますので、所得税の源泉徴収を行い納税する必要があります。これは定款で除斥期間を何年にしても変わりません。

(24)第6章 附則 設立に際して出資される財産の最低額

第24条 当会社の設立に際して出資される財産の最低額は、金10万円とする。

・定款の絶対的記載事項になります。

(25)最初の事業年度

第25条 当会社の最初の事業年度は、会社成立の日から平成〇〇年〇月〇〇日までとする。

申告期限の延長などの一部の届け出は、最初の事業年度の終了までとされているため、注意が必要です。

(26)発起人の氏名及び住所

第26条 当会社の発起人の氏名及び住所は、次のとおりである。

住所: 東京都〇〇

氏名: 〇〇 〇〇

・定款の絶対的記載事項になります。

(27)定款に定めのない事項

第27条 本定款に定めのない事項は、すべて会社法その他の法令の定めるところによる。

4.まとめ

定款の記載事項の種類と、条文例と注意点について解説しました。時間のある方は、ある程度自分で項目ごとにこうしたいというのを決めて、最後に専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。安いところを探して依頼した場合は、それだけチェックの時間や十分なヒアリングの時間をとれず、こちらの要望がきちんと伝わらない可能性もあります。

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